人生を表現する生き方~影響を受けた二冊

 今回は,影響を受けた二冊,『ノマドワーカーという生き方』『タレントだった僕が芸能界で教わった社会人としての大切なこと』について語りたい。  自己表現というとき,私にとっては,自分の内面のことであり,自分の思いであり,自分の感情であった。その自己を自分の生活に広げたとき,自然主義文学が輸入され,勘違いから,日本的な私小説が始まった。別に田中英光も好きだし,葛西善蔵も嫌いではない。しかし…

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『希望のつくり方』について~希望と夢の間をゆく

玄田有史『希望のつくり方』(岩波新書)という本は,タイトルが「ちょっと」と感じさせるもので,面映ゆくて,外でカバーを付けたまま読むのがためらわれて,積読の憂き目にあっていた。それが,ふと昨日目に留まり,読み終えた。久しぶりに,頭の中が活性化し,脳内の広範囲が点滅しているのがわかる,どういうか,読みながら,いろいろなことを考えさせてくれた本だ。読んでみていただくしか,この興奮は伝えにくい。 …

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老化とともに幸福感が強まる?~『脳には妙なクセがある』から

池谷祐二『脳には奇妙なクセがある』について 正直いって,本書は,『進化しすぎた脳』『単純な脳、複雑な私』やアントニオ・R・ダマシオ『生存する脳』に比べると,焦点が一点に収斂していないせいで,読むほどに脳が沸騰するという体験はしなかったが,反面連載したものをまとめたという性格もあり,多様な脳に関する最新研究情報をもらったという印象が強い。一回ではもったいない気がするので,何回かに分け…

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コミュニケーションにかかわる脳の機能~『脳には奇妙なクセがある』からⅡ

引き続き,池谷祐二『脳には奇妙なクセがある』について かつてコミュニケーションを拒絶されたと受け止めると,脳にとっての衝撃は,実際に殴られたのと同じだといわれていると,読んだことがあるが,例えばこんな実験がある。 三人でバレーボールの練習をしている。初めは三人でボールを回しているが,そのうち被験者にボールが回らなくなる。自分以外は目の前で楽しく遊んでいるのをながめている,そん…

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コミュニケーションのダブルバインドとコミュニケーション教育~『わかりあえないことから』よりⅠ

平田オリザ『わかりあえないことから』(講談社現代新書)について 企業の人材担当者は重視する能力のトップにコミュニケーション能力を上げる,という。しかし,そのコミュニケーション能力の内実がはっきりしない。学生は,「きちんと意見が言える」「人の話が聞ける」「空気を読むこと」等々という。しかし,著者は,企業が求めるコミュニケーション能力は,ダブルバインド(二重拘束)に陥っている,と指摘する。…

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わかりあうという幻想を手放すコミュニケーション~『わかりあえないことから』よりⅡ

引き続いて,平田オリザ『わかりあえないことから』について いま日本人に要求されているコミュニケーション能力の質が,大きく変わりつつある,と著者は言う。かつては同一民族という幻想でくくれたが,いまもう日本人はバラバラなのだ。この新しい時代には,バラバラな人間が,価値観はバラバラなままで,「どうにかうまくやっていく能力」が求められている。著者は,「協調性から社交性へ」とそれを呼んでいる。 …

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冒険は異界を意識するところから始まる~『義経の冒険』をめぐって

金沢英之『義経の冒険』(講談社選書メチエ)を読んだ。 ここでいう,義経の冒険というのは,義経がジンギスカンだったという話ではなく,御伽草子『御曹子島渡』を指す。 義経は,奥州秀衡にかくまわれているが,そこでゑぞが島の「かねひら大王」のもつ「大日の法」という兵法書を手に入れるべく,とさの湊から海路漕ぎ出し,ころんが島,大手島,ねこ島,もろが島,ゆみ島,きかいが島等々を通り過…

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弦(ひも)は線ではなく面であり立体でもある~『重力とは何か』を読んでⅡ

前回に引き続いて,大栗博司『重力とは何か』(幻冬舎新書)を読んだ感想を続ける。 70年代からマクロとミクロを統合すると期待された超弦理論であったが, 困った問題が立ちはだかっていた。 そのひとつは,理論が成り立つためには宇宙が10次元(空間9次元+時間1次元)である必要があり,6つの余分な次元がなぜ必要なのかが,理論の欠陥とみなされたこと。 さらに,実験で見つかっていない奇…

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われわれは二次元スクリーン上に存在している?~『重力とは何か』を読んでⅢ

前回,前々回に引き続いて,大栗博司『重力とは何か』(幻冬舎新書)を読んだ感想を続ける。 三次元空間のある領域で起きる重力現象は,すべてその空間の果てに設置されたスクリーンに投影されて,スクリーンの上の二次元世界の現象として理解することができる…。 これを,重力のホログラフィー原理と名付けられている,という奇妙な説について,ブライアン・グリーンは,『宇宙を織りなすもの』で,それをこ…

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パースペクティブを広くとることで見えてくるもの~宮地正人『幕末維新変革史』を読んで

上下二冊の,宮地正人『幕末維新変革史』(岩波書店)を読んだ。 本書の中で,福沢諭吉が『西洋事情』を上梓する際,「天下にこんなものを読む人が有るか無いか夫れも分からず,仮令読んだからとて,之を日本の実際に試みるなんて固より思いも寄らぬことで,一口に申せば西洋の小説,夢物語の戯作くらいに自ら認めて居た」という,諭吉の述懐に,珍しくこういう私論を持ち込んでいる。 本物の著述というものは…

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嫌悪感は生存適応性が高い?

嫌悪感については,前回, http://blogs.dion.ne.jp/ppnet/archives/11168248.html で触れたが,引き続き,人間しか持たないという嫌悪感について,続けて考えてみたい。 ハーツは,面白いことを言う。 多くの感情には,ポジティブな気持ちよりもネガティブな気持ちが勝るほうが物事がうまく運ぶのだ。なかなかそんなふうには思えないかも…

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城というものの象徴性を創り出す

千田嘉博『信長の城』(岩波新書)を読む。 信長が館城とした,勝旗城,那古野城,清州城,小牧山城,岐阜城,安土城と,信長が住まった城の軌跡を通して,信長が,なそうとしたこと,めざしたものが見える,と著者はいう。 ①近世城郭が獲得した強力な象徴性を創り上げたこと。これはいまでも受け継がれ,我々に影響を与えている。 ②自分を頂点とした武士の権力構造を,城づくりの中につくりだしていった…

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リーダーシップの源泉

ジョセフ・ジャウォースキーは,こう言う。 数年にわたるリーダーシップ・フォーラムでの経験から,私は,人々の中には一体感を経験したい,自分より大きなものの役に立ちたいという強い欲求があることがわかってきた。そんなふうに役立つことが人間である意味だということも理解し始めた。だからこそ,個々のメンバーよりももっと大きなものと結びつき,一つの意識として行動するチームの一員であるという経験は,人…

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「する」(doing)機能の脳(左脳)と「ある」(being)機能の脳(右脳)

ジル・ボルト・テイラー『奇跡の脳』(新潮文庫)を読んで。 僕は基本的に右脳・左脳と区別して語る人を信じない。人は,両方合わせて僕なのであって,片っ方では,「僕」として存在しない。機能として僕を語ることは,御免蒙る。 しかし,30代半ばで,先天性の動静脈瘤奇形(AVM)によって,大量の血液が左半球のあふれ,左脳の思考中枢の機能を失った,脳科学者が,8年かけて脳卒中から回復した奇跡的…

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組織の学習と個人の学習

ピーター・M・センゲの『学習する組織』を読んだ。何年前か,『フィールドブック 学習する組織「5つの能力」』を読んだ時の,脳の発酵するような興奮はなく,正直に言うと,醒めて,眉に唾をつけつつ読んでいた。 それは単に自分の側の変化なのか,時代の変化なのか,僕自身には見極めがつかない。ただ,距離を置いて,それを計っている自分がいたことは確かだ。 学習する組織のディシプリンとして, …

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ソリューション・トークの効果

『DV加害者が変わる』を読んだ。解決志向グループセラピー実践マニュアルと副題された本書は,DV加害者プログラムでのソリューション・フォーカスト・アプローチの実践記録である。 DV加害者に対する裁判所命令の一つとしてDV加害者プログラムへの参加が義務付けられているアメリカでは,様々な治療プログラムが試みがなされているにもかかわらず,再犯率は,15~50%と言われている。このプログラムは,…

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遺伝子の開花

かつて,神田橋條治さんが, ボクは,精神療法の目標は自己実現であり自己実現とは遺伝子の開花である,と考えています。「鵜は鵜のように,烏は烏のように」がボクの治療方針のセントラル・ドグマです。 と書いていた。遺伝子学の堀田さんは, 遺伝子で決めている範囲を逸脱することはできない。それは厳然たる真理だと思います。ただし,遺伝子が決めている範囲をすべて使っているかというと,実はほ…

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なんだかなぁ

坂野潤治『西郷隆盛と明治維新』を詠む。 なぜ反乱したか,著者はこう言う。 西郷には内乱にまで訴えて実現しなければならないような『目的』は,もはやのこされていなかった。幕府を倒し,大名を倒し,近代的な中央集権国家を樹立するという西郷の夢は,すべて果たされてしまったのである。西南戦争は,西郷にとっては,大義なき内戦だったのである。 そして,桐野利秋ら急進派の暴発に引きずられたの…

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元勲

一坂太郎『山形有朋の「奇兵隊戦記」』(歴史新書y)を読む。 元勲というのは, 明治維新を実現し,明治政府の樹立・安定に寄与した一群のカリスマ的な人物たちが「元勲」と呼ばれた, のだそうだ。しかし,薩摩で言えば,西郷隆盛は城山で自刃し,大久保利通は紀尾井坂で暗殺され,長州で言えば,大村益次郎は暗殺され,木戸孝允は病死し,前原一誠は萩の乱で死に,広沢真臣は暗殺された。 山…

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脳が教えること

V・S・ラマチャンドラン『脳のなかの天使』(山下篤子訳)を読む。 前作の『脳のなかの幽霊』に衝撃を受け,つづいて『脳のなかの幽霊、ふたたび』も読んで,三作目になる。今回の『脳のなかの天使』という訳題はどうも変だ。原題は『The Tell-Tale Brain』とある。まあ,脳が暴露することというか,脳の告げ口というか,脳が教えることという方が,原題のニュアンスに近いのではないか。 …

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