牢人

渡邊大門『牢人たちの戦国時代』を読む。 いわゆる牢人が歴史上現れるのは,源平争乱期からである。牢人には, ①郷土をはなれて,諸国を流浪する人 ②主家を去り,封禄を失った人。 があり,前者は,律令国家で本貫地での税負担に窮乏化し,本貫地から逃げて浮浪人になっものを指す。国家の根柢を揺るがす問題であった。後者は,近世仕官していない武士を差した。江戸時代,浪人が定着する。 …

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境目

盛本昌広『境界争いと戦国諜報戦』をよむ。 「戦国諜報戦」は,いささかオーバーというか,境界線での陣取り合戦には情報のやり取りも含まれるので,ここから想定される忍者と早合点すると,少し当てが外れる。 本書は, 信長や秀吉が現れる戦国時代の最終段階に,島津・長宗我部・伊達などの大名が複数の領国を支配するようになる前は,国衆が分立している国の方が多数であり,大きな戦国大名がいる国…

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間合い

前田英樹『剣の法』を読む。 この本は,何のために書かれたのかが,読んでいて分からない。著者は, この本は,新陰流の刀法を実技面からかなり詳しく書いたものである。けれども,技の解説書といったものではなく,この刀法が成り立つ根本原理を,誰が読んでもわかるように書いたつもりである。このような原理をつかんでいれば,流祖以来四百数十年にわたって続くこの刀法の中心は崩れないと思う。 と…

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攻城

伊東潤『城を攻める 城を守る』を読む。 城には人格がある。信玄のいう, 人は石垣,人は城, の意味ではない。建造物としての城自体に,縄張りした人物の人品骨柄,器量が出る。それが,攻城戦において,もろに出る。本書の面白さは,そこにある。 ただ連載物の単行本化のため,著者が断るように, 上田城, がなかったのは,個人的には少しがっかりしたが,白河城から,熊本城…

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快戦

中村彰彦『ある幕臣の戊辰戦争』を読む。 幕末,「四八郎」という言葉があったそうだ。 攘夷論者の清川八郎(庄内藩郷士), 北辰一刀流の達人,井上八郎(幕臣), 彰義隊副頭取の天野八郎(幕臣), 心形刀流の伊庭八郎(幕臣), の四人である。本書の主人公,伊庭八郎は,旧幕府遊撃隊を脱走し,函館で死ぬ。 伊庭家歴代当主は,ただの幕臣ではなく,下谷御徒町にある心形刀流道場…

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手抜き

釘原直樹『人はなぜ集団になると怠けるのか』を読む。 副題に,「社会的手抜き」の心理学とある。要は,手抜き,著者はこう定義する。 個人が単独で作業を行った場合にくらべて,集団で作業を行う場合のほうが一人当たりの努力の量(動機づけ)が低下する現象を社会的手抜きという。 この例に,フランスのリンゲルマンの行った実験結果を上げ,一人の力を100%とした場合,集団作業時の一人あたりの…

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謀叛

谷口研語『明智光秀』を読む。 本能寺の変で一躍歴史に名を残したが,さて,では事跡はというと,ほとんどが残っていない。歴史に登場したのは,彼の生涯五十数年のうち, 後期の足かけ十四年, である。 その十四年間で光秀は,一介の浪人から,当時の日本でベストテン入りするだろうほどの権勢者へと成り上がった。 と著者は言う。しかし, これはまったく信長の十四年間と重な…

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革命

藤田達生『天下統一』を読む。 サブタイトルに,「信長と秀吉が成し遂げた『革命』」とある。何が革命なのか。 著者は冒頭でこう言う。 私たちは,戦国大名領国制の深化,すなわち分権化の延長線上に天下人による統一,即ち集権化があることを,何の矛盾もなく当然のように考えてきたのではないか。近年においても,天下人信長と秀吉や光秀らの数ヵ国を預かる国主級重臣との関係を,戦国大名と支城主の…

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姿勢

成瀬悟策『姿勢のふしぎ』を読む。 脳性マヒで動かないはずの腕が,催眠中に挙がったという事実に直面したのがことの始まりで,それ以来三十数年を経て今なお,人の「動作」というものの面白さに取り付かれっぱなしの状態, という著者の, 肢体不自由者の「動作訓練」と並んで,動作による心理療法を「動作療法」とし,両者を合わせて「臨床動作法」と呼ぶ, 独自の治療効果のある療法の臨床実…

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マインドサイト

ダニエル・J・シーゲル『脳をみる心・心をみる脳』を読む。 キーワードは,マインドサイトである。 マインドサイトについて,こう書く。 マインドサイトとは,自分の心と脳の働きを意識することができる注意集中の形である。マインドサイトをもつことで,心のなかの暗く激しい渦に巻き込まれるのではなく,「いま自分はどんな気持ちでどんな状態にあるか,これからどうなりそうか」に気づくことができ…

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物語

武光誠『一冊でわかる古事記』を読む。 『古事記』の世界全体が,新書の解説本でわかるわけでもないが, 分かりやすい形で,読者に『古事記』の世界を紹介する, 意図で,著者の眼鏡を通した古事記世界像である。その意味で,かつて読んだきり読み直していない『古事記』を,他人の解説という目を通すと,どう見えてくるのかが,僕にとってのひとつの面白さだ。 古事記も物語であり(日本書紀が…

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知への意志

ミシェル・フーコー『〈知への意志〉講義』を読む。 「ミシェル・フーコー講義集成1」である。「コレージ・ド・フランス講義 1970‐1971年度」。フーコーの講義録である。実際の講義の録音を基にすることになっているが,この年度には,それがないため,フーコーが講義のために残した草稿にもとづいている。 こんな知の巨人について。何か論評できるはずもなく,ただその精緻な論理と奥行きの深さに…

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虚点

レペッカ・ブラウン『体の贈り物』を読む。 これは僕の意志ではなく,「ナラティヴ・アプローチ入門』の第三回目用の事前課題として出されたもの(肝心のセミナーには不参加にしだのだが)。まず,僕の手にすることのない類の本,というか小説だ。僕の関心領域の外にあるので,視野に入ることはない。いわゆるベストセラーではないらしいのだが。 推測するに,第三回は,「パラレルチャート」がテーマなので,…

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ナラティヴ

アリス・モーガン『ナラティヴ・セラピーって何?』を再読。 「ナラティヴ・アプローチ入門」を受講するのを契機に,かなり前に読んだ,本書を再度読み直してみた。 基本中の基本の再確認だが,結構大事なことを忘れていた気がする。その基本を,おさらいしておきたい。 著者は,イントロダクションで, ナラティヴ・セラピーは,カウンセリングとコミュニティー・ワークにおいて,相手に敬意を…

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経済視点

武田知弘『「桶狭間」は経済戦争だった』を読む。 信長の政策を経済面に焦点を当てている。その面で, http://ppnetwork.seesaa.net/article/400155705.html の,戦国大名の鉢植化の背景を理解するのには好都合ではある。表題は,桶狭間となっているが,それだけを掘り下げたわけではなく,ただの入口,後は,武田,上杉,毛利などの戦国大名との対…

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クーデター

半田滋『日本は戦争をするのか』を読む。 解釈改憲をはじめとする現政権の進めている憲法空洞化は, クーデターである, そう本書は断罪する。 本書は, 安倍政権が憲法九条を空文化して「戦争ができる国づくり」を進める様子を具体的に分析している。法律の素人を集めて懇談会を立ち上げ,提出される報告書をもとに内閣が憲法解釈を変えるという「立憲主義の破壊」もわかりやすく解説し…

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宇佐美文理『中国絵画入門』をよむ。 よく考えると,例えば,山水画,水墨画,というように,結構中国絵画の影響を受けているのに, 中国絵画について,ほとんど知らないことに気づく。 著者は, 気と形を主題にした中国絵画史 というイメージで本書を書いたと説明する。そして, 中国絵画について何かを知りたいと思われた方,そこで知りたいと思うことはなんなのか。それを知ることが…

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九条

松竹伸幸『憲法九条の軍事戦略』を読む。 昨年刊行されたものだ。もはや時機を失したか,と悔いつつ,失いつつあるものの大きさに思い至る。 はじめにで,著者はこう書く。 「九条と軍事力の関係が相容れないという点では,護憲派と改憲派は共通している…。だが私は,この既成事実に挑戦することにした。護憲派にも軍事戦略が必要であると考えるにいたった。」 と。その意味では,本書の主張は…

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知性

田坂広志『知性を磨く』を読む。 律儀なファンではないが,以前に,何冊か強い印象を懐かされた本を読んでいる。基本的に,その知性に惹かれていることが,普段は読まない「ノウハウ」チックな本書を手にした動機である。 著者は問う。 「学歴は一流,偏差値の高い有名大学の卒業。 頭脳明晰で,論理思考に優れている。 頭の回転は速く,弁もたつ。 データにも強く,本もよく読む。 しかし…

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劣化

佐伯啓思『正義の偽装』を読む。 帯には, 稀代の社会思想家 とある。しかし,読んで,異和感のみが残った。福田恆存はまだしも,件の長谷川三千子を麗々しく引用するあたり,そのレベルの人かと,ひどく幻滅した。 著者は,本書について, 「時々の時事的な出来事や論点をとりあげつつ,それをできるだけ掘り下げて,使嗾的に論じるというのが連載の趣旨なのです。」 という。そ…

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