2013年05月11日

文脈をどんなに整理しても無理でしょう


岡本真一郎『言語の社会心理学』を読んだ。

口幅ったい言い方になるが,社会心理学が,パターンを分類するだけのつまらない学問だということの再確認ができたという成果しかない。コミュニケーションが文脈に依存する以上,どんなに文脈を精緻にしても,そのアプローチでは,コミュニケーションは結局つかめないという見本のようなものだという気がした。つかめたとしても,上っ面をなぜているだけだ。

例えば,コミュニケーションを,道具的コミュニケーションと自己充足的コミュニケーションに分ける。情報を伝えて目的を達する道具的コミュニケーションに対して,感情を表明するコミュニケーションを自己充足的コミュニケーションという。

こんなバカげた分類に意味を見いだせるだろうか?人がコミュニケーションする実態を掘り下げるのではなく,表面的なかかわりを分類しようとするから,こういうことになる。

あるいはコミュニケーションのチャンネルを,言語的コミュニケーションと非言語コミュニケーションに分ける。で,非言語チャンネルを,音声,表情,視線,頭の動き,ジェスチャー,姿勢,対人距離と整理する。そう整理されると,言語以外が伝える情報というものが浮き上がっては来る。だが,有名な,メーラビアンの,7%が言語で,音声が38%,表情が55%という相手への影響力比率があるが,常識的に考えても,7%しゃべるだけで相手に伝わるとは思えない。もっともらしい調査の弊害だ。全体があいまって,相手に伝わっていく。恋人同士なら,もっと言葉は少ないかもしれない。見知らぬ他人なら,言葉なしでは何も伝わらない。文脈次第なのだ。

では,文脈を共有できれば,伝わるのか。それを,「共通の基盤」として,著者は4つに整理する。

第一は,会話の物理的状況
第二は,先行する会話。
第三は,共同社会の成員性。
第四は,聞き手側の推測

しかしこの分類は,基本的におかしい。会話している者同士が,共通の会話の基盤にいるかどうかは,二人(ないし何人か会話をしている者同士)の文脈だけであって,それが,同じ会社にいるかとか,それまでの会話の流れとか,レベルの違う条件を並べても,ほとんど意味がない。

僕は,これをコミュニケーションの土俵という。例えば,ジョハリの窓でいう,「パブリック(相手の知っている自分と自分の知っているいる自分の重なる領域)」も,その一つだが,土俵は,話し手同士で意識しないと,作れない。例えば,「ちょっといい?」「●●について話したいんだけど」というやり取りで,向き合って初めて,土俵ができる。そこでなら,「先行する会話」が意味を持つ。上っ面をなぜている,というのは,こういう分析を言う。

ポライトネス理論と言われるものも,似たようなものだ。対人配慮の先達理論というが,5つのストラテジーに分ける。

①あからさまに,何の対処もなしに言う。たとえば,「手伝え」
②積極的ポライトネス 主に付加的表現によって,相手との親愛感を強調しマイナスの影響を緩和する。「何々のご出身だそうで,私もそうです。では,手伝っていただけますか?」
③消極的ポライトネス 言動を和らげたりニュアンスを弱めて影響を緩和する。「忙しいので,手伝ってもらえないかもしれないけれど,どうかな」
④何も言わない

要するに,対人配慮をちょっとレベル差で分類して見せたというだけで,何の役にも立たない。それなら,どんな付加的言葉で,表現を緩和しようとするか,配慮言語を分類していった方が,行動パターンが見えるのではないか。

「ごくろうさん」という言葉を,いっとき若手が上司に使うというので,話題になったことがある。これも,文脈なのではないか。言葉は生き物なので,「ご苦労様」という労りを, 表現する場面の経験値がなかっただけに過ぎない。それが,すたれたのは,使い勝手が悪いだけだ。逆に,「お疲れ様」という,同じ労りの言葉は,上下の覊絆が薄らいでいる分,使い勝手がよく,次のように汎用化しているという。

①ねぎらうべき労働等の跡の別れのあいさつ
②職場,学校などでがんばるべきところですれちがいのあいさつ
③職場での呼びかけ
④電話での決まり文句
⑤どう利用へのメールへの件名や書き出し
⑥職場や学校での最初の挨拶
⑦自分が先に帰る時,仕事を続けている同僚にあいさつ
⑧行楽地での解散のあいさつ
⑨おしゃべりや食事の後の解散時のあいさつ
⑩理容院や美容院などの終了時の客へのあいさつ
⑪ウエブサイドでの書き出し挨拶

つまり,文脈を共有化しているというシグナルと言っていい。「ご苦労さん」には,上から目線が入りがちだが,それがないのが,いまのなんとなく文脈を共有しているようなふんわりした雰囲気には合う,ということなのだろう。

こう見ると,文脈依存のコミュニケーションを,文脈を精緻化しないところで,パターン分類しても,実はコミュニケーションについては何もつかめず,網の目のようなレッテルをいっぱい貼るだけで終わっていく。

そんなことを考えさせる本ではあった。



今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm



#岡本真一郎
#言語の社会心理学
#メーラビアン
#文脈
#土俵
#ジョハリの窓

posted by Toshi at 04:22| Comment(39) | 社会心理学 | 更新情報をチェックする