2012年12月30日

宇宙という玉ねぎに「芯」はあるか?~『重力とは何か』を読んでⅠ


大栗博司『重力とは何か』(幻冬舎新書)を読んだ。

著者自身が超弦理論(超ひも理論)研究の最前線で,六次元空間から三次元素粒子の性質を導き出すトポロジカルな計算方法(「トポロジカルな弦理論」)を開発した共同研究者の一人であり,わくわくするような,ミクロからマクロにわたる宇宙研究の最前線への歴史を,数式を使わず読ませていく。ベストセラーだそうだが,なかなか面白いし,考えさせられる。

ただ,私の知識では,ここにあるすべてを解きほぐせないので,なぞるだけになるかもしれない。しかしそれにしては,一回では無理で,何回かに分けて,紹介したい。

京都市青少年科学センターに,朝永振一郎の色紙がある,という。そこにはこう書かれている,という。

ふしぎだと思うこと これが科学の芽です
よく観察してたしかめ そして考えること これが科学の茎です
そうして最後になぞがとける これが科学の花です

そのために,まず重力の7不思議から書き始めている。これが科学の芽にあたる。それがどう解かれてきたのかを説明して,最後に今の科学の到達点,まだ花開いていないけれども,そこを締めくくりとして,全体が構成されている。

第一の不思議は,重力は力である。ニュートンによって,りんごが地面に落ちる現象も月が地球の周りを回る現象も,同じひとつの理論,万有引力で統一された。

第二の不思議は,重力は弱い。重力はほんの小さな磁石の方が強い。電磁気力があるから,分子がしっかりくっついていて,物質もわれわれの身体もまとまっていられる。

第三の不思議は,重力は離れていても働く。磁石が鉄を引き寄せる時,両者の間では力を伝える粒子が行き来している。重力も,まだ発見されていないが,目に見えない粒子が重力を伝えていると考えられている。

第四の不思議は,重力はすべてのものに等しく働く。同じ大きさの鉄の玉と木の玉を落とすと,同じ速さで落下する。質量の大きい物体は,動かしにくい性質と重力に強く惹かれる性質があり,重いものと軽いものが同時に落ちるのは,プラマイゼロで相殺されていると考えられている。重力は質量が大きいほど強いのに,重力が運動に与える影響は質量と無関係になる。

第五の不思議は,重力は幻想である。飛行機の自由落下で無重力状態を作り出すことができる。逆にエレベーターで上昇するとき,強く重力を感じる。重力は消せるし,強さが変わる。見方によって姿を変える性質がある。

第六の不思議は,重力はちょうどいい。宇宙は137億年前に生まれ,現在のように銀河が生まれ,宇宙全体の構造が出来上がるまでに100億年かかり,その間に太陽系も生まれて,地球は46億もの時間をかけて人間を作り出している。しかしもし少しでも重力の働きが違っていたら,生まれた瞬間に重力の重みで潰れてしまうか,逆にあっという間に膨張して冷え切ってしまい,星さえできなかったかもしれない。その意味で,重力がちょうどいい強さだった,といえる。

第七の不思議は,重力理論は完成していない。重力の働きを説明する理論はまだ完成していない。身近なことなのに,なかなか説明できない。それは,宇宙の謎と深くつながっている。

科学史にあたる部分は,少し端折って,最近の解明に飛ばすと,「宇宙という玉ねぎ」はどこまで皮がむけるか,という問いが面白い。

いままで,原子→原子核→陽子・中性子→クォーク,と皮をむいてきた。「その先がある気がします」という。そして,

結論から申し上げましょう。それがクォークかどうかは別にして,この玉ねぎには必ず「芯」があります。物理学者の皮むき作業は,永遠に続くわけではありません。

ミクロの世界を観察する現代の顕微鏡は,「できるだけ波長の短いものを観察対象にぶつけなくてはいけません。対象のおおきさよりも波長が長いと,波が相手を回り込んで通り過ぎてしまいます」。しかし「『波長が短い』とは『エネルギーが高い』」ので,どれだけエネルギーをどこまで高められるかが解像度を左右する。

そのため粒子加速器は巨大化し,CERN(欧州原子核研究機構)のLHC(大型ハドロン衝突型加速器)は,一周27キロの装置が,地下100メートルに埋められている。その中で,陽子を回転させて加速し,反対方向からくる陽子と衝突させて,≪100億×10億≫分の一メートルというミクロの世界を観察する(ナノが10億分の一メートルなので,ナノ×名の10分の一)。

きわめて小さな領域に大きな質量が集中すると,ブラックホールが生まれる。ブラックホールができると,その質量に応じた事象の地平線ができ,そこより内側の領域を見ることができなくなる。だから,LHCを超える加速器をつくっても,ブラックホールが無視できない大きさになり,観測領域が覆い隠されてしまう。そのため,原理的には,≪1億×10億×10億×10億≫分の一,10ナノ・ナノ・ナノ・ナノメートルが限界とされている。これを「プランクの長さ」と呼ぶ。これが宇宙の玉ねぎの「芯」とされる。

原理的に観測できない以上,それより小さいものはありません。それが宇宙という玉ねぎの「芯」であり,そこから先は,もう皮をむくことができないのです。

だとして,

その「芯」を説明できる理論さえ築くことができれば,それ以上に理論を拡張する必要はありません。その先にフロンティアはないのですから,そこが理論の終着点です。そこまでたどり着けば,この世界の根源を統一的に記述する
「究極の理論」が完成することになります。

実は,すでにその目星はついています。その統一理論は,量子力学と一般相対論を融合したものになるに違いありません。というのも,まず「波長」をもつ粒子は量子力学の守備範囲です。一方,ブラックホールは一般相対論の世界。つまり,その両者が一致する10ナノ・ナノ・ナノ・ナノメートルの「プランクの長さ」は,量子力学と一般相対論がどちらも同じくらいの影響を及ぼす領域なのです。

しかしそれを統一するのは,大きな障害がある。ひとつは,計算に無限大が現れて物理的な意味をなさないことが一つ。さらに,

アインシュタイン理論では,重力の伝わり方を空間の曲り具合や時間の伸び縮みで説明します。そこでは時間と空間が混ざり合っているのですが,これに量子力学を当てはめると,時間と空間の構造そのものがミクロの世界で揺らいでしまう。空間が固定されないので,「長さ」という概念も成り立ちません。長さを決めようと思っても,揺らいでいる空間のどこを測定していいのかわからないからです。

この量子重力の無限大の困難を克服し,様々なパラドックスを解決することで,量子力学と一般相対論を融合すると期待されている理論,それが…「超弦理論」です。

超弦理論は,超ひも理論と表記されることもある,Superstring Theory。ストリングとは,現在わかっている素粒子,クォーク,光子,電子,ニュートリノなどとしてあらわれてくる素粒子の基本単位,皮をもう一枚むいた,共通単位として,すべての粒子は同じストリングからできている,と考えている。

この超弦理論が,宇宙論(ミクロの世界とマクロの世界を統一する)のフロンティアなのである。この弦理論を,「素粒子が『点』ではなく,弾力のある『弦』でできていると考えれば,次々と見つかる粒子の性質をその公式で説明できることを発見」したのが,ノーベル賞を受賞した南部陽一郎であった。

このほかにも,素粒子論の湯川秀樹,朝永振一郎,益川敏英,小林誠,米谷民明から,インフレーション理論の佐藤勝彦まで,綺羅,星のような学者・研究者群の中に,日本人の多くの学者が数多くかかわっていることが,よくわかる。

その多くは,仮説の連続であり,ついこの間,アインシュタインの仮説が崩れたと大騒ぎになっていた。まだ仮説なのだと思い知らされた逸話だ。著者は,はじめにでこう書く。

科学的な発見は,最初は研究者の知的好奇心から生まれたものであっても,長い目で見ると,結果的に世の中の役に立つことが少なくありません。かつて「数学のノーベル賞」とも呼ばれるフィールズ賞を受賞した森重文は,自身の研究している基礎数学が,「いますぐには無理でも,5〇年先か,100年先かわからないが役に立つ。そのためには探究心が最高のコンパスだ」と語っています。

そうした余沢にあずかっている。GPSもニュートンがいなければ人工衛星を飛ばせず,アインシュタインがいなければ,距離を正確に測定できなかった。

物理学の歴史は,10億のステップで広がってきた,と著者は言っている。月の軌道の10億メートルの世界と地上の身の丈とが同じ原理で動いているのを発見したのが,ニュートンであり,10億の階段をもう一つ上がって,10億×10億の世界,銀河一つ分の世界になると,アインシュタインの理論が必要になる。

ところが,そのアインシュタインの理論も,10億×10億×10億より先の世界,宇宙の果ての距離,光で見ることのできる限界になると,遠くを見れば見るほど過去を見ていることになり,アンドロメダ銀河は250万年前であり,さらに遠くを見れば,137億年前の宇宙のはじまりを見ることになる。そこではアインシュタインの理論は破綻する。

逆にナノレベル,10億分の一,素粒子研究は,量子力学がなくてはならないものです。素粒子加速器は,≪10億×10億≫分の一の世界を観測できる。しかし≪10億×10億×10億≫分の一の世界では,新しい理論を必要とする。

いま,ミクロとマクロを統一理論する理論が求められているのは,ミクロの解明が,そのまま宇宙の解明につながっているからに他ならない。

その最前線,超弦理論と,それが描き出す驚天動地の世界については,次回,次々回にまとめたい。

参考文献;
ブライアン・グリーン『宇宙を織りなすもの』(草思社)
ブライアン・グリーン『エレガントな宇宙』(草思社)

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm



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posted by Toshi at 17:53
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