2013年01月24日

無知の姿勢(not knowing)を貫く~田中ひな子「解決志向アプローチと社会構成主義」に参加して


先日,日本ソリューション協会・ブリーフセラピー研究会による田中ひな子先生の『解決志向アプローチと社会構成主義~ 会話するだけでよくなっていく仕組み 』に参加した。サブタイトルの,「 会話するだけでよくなっていく仕組み 」にも惹かれた。レジュメを参考に,そこで,受け止めたことを整理してみたい。

社会構成主義は,難しいことはわからないが,どこかに正解があるのではなく,正解は,一人一人の中にある,ということだと受け止めている。ここから,セラピストが正解をもっていて,ドクターのように診察するというようにはいかない,ということが,セラピストの姿勢として言明されている,と受け止めている。それは,ロジャースの言う共感性とは,微妙に違うというと感じている。ロジャースは,as ifといった。あたかも,相手であるように,と。そこには,誤解かもしれないが,「相手になってみる」という姿勢が垣間見える。しかしここで言う,あえて社会構成主義ということは,正解はクライアントにしかない,とすれば,相手に聞くしかないという姿勢が見えてくる。

レジュメの冒頭には,(聞き漏らしたが,たぶん『解決のための面接技法』からの引用だと思う?)

すべてのクライアントは自分たちの問題を解決するのに必要なリソース(資源)と強さをもっており,自分たちにとって何が良いことかをよく知っており,またそれを望んでいて,彼らなりに精一杯やっているのだ

という信念(前提)に基づいた会話を行う,とある。これを,若島孔文先生は,相手に○をつける。という。これについては,

http://blogs.dion.ne.jp/ppnet/archives/10967952.html

で触れた。つまり,

セラピーとは「会話」を通して「解決」という現実を構成することである。

というのが,出発点なのであるが,大前提は,相手を認め,相手の存在を認知し,承認することからスタートする,ということなのだ。で,

・クライアントこそは自分自身の人生の専門家である。
・セラピストはインタヴューの専門家である。
・無知の姿勢(知らないというnot knowing姿勢);純粋な好奇心が伝わってくる態度,「教えてもらう立場」
・「何を信じているか」が「どのように見えるか」に影響を与え,「どのように見るか」が「何が見えるか」に影響を与え,「何が見えるか」が「何をするか」に影響を与える。

が基本になる。ここでいう会話は,人と人との会話だけでなく,その人自身が自分としている会話(「自分を巡る自分との対話)であり,セラピストは,クライアントのしている「自分との会話」に入っていく。そこに入れてもらい,その人の普段の会話の輪に入れてもらわなくてはならない。だから,無知の姿勢で,たずねていく。できるだけ「クライアントの言葉」を使って,クライアントになじみやすい言葉でたずねていく。

・「何を信じているか」が「どのように見えるか」に影響を与え,「どのように見るか」が「何が見えるか」に影響を与え,「何が見えるか」が「何をするか」に影響を与える。

この時,マザー・テレサの,

思考に気をつけなさい、
それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい、
それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい、
それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい、
それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい、
それはいつか運命になるから。

の言葉が,引用された。だからといって,セラピストが変化を起こすということではない。

大切なのは変化を起こすことではなく,会話のための空間を広げることである。治療における変化とは,対話を通じて新しい物語を作ることを意味する。そして対話が進むにつれ,まったく新しい物語,「それまで語られることのなかった」ストーリーが,相互の協力によって創造される。(H・アンダーソン&H・グーリシャン「クライアントこそ専門家である」)

ナラティブは,別にナラティブセラピーだけの専売特許ではない。V・E・フランクルは,誰もが自分の物語を語りたがっている,という言い方をした。ドミナント・ストーリーに対抗するオルタナティブ・ストーリーは無数にある。それだけの人生を,生きている。結節点ごとに,人生を選択し,無数の選択肢の中から選んできた。その一つ一つがその人の人生の物語として浮かび上がってくる。そういう会話をする,ということだろう。

田中ひな子先生は,それを,「会話を乗り物と思う」という。会話が主体性を持つ。よく,場とか土俵という言い方を僕はするが,その両者のいる空間そのものが,主体的に動き始める。それを,「脳と脳が溶けあう」「脳と脳がドッキング」すると,ひな子先生はたとえる。そのやりとりの中では,どれがセラピストの発言か,クライアントのそれかはわからない,そのような会話が,独自に動き出す,そういう磁場のようなものを作り出す。

そのとき,問題などに焦点を当ててはならない。問題は,何かの基準に対して,無数に発生する。ちょっと体調が悪い,喧嘩した,そっぽを向かれた,しくじった,躓いた,頭が痛い等々。その一つ一つに振り回されたところで,次はまた別の問題が起きるだけだ。「問題」と名付けただけで,何かすべてがマイナスに見えてくる。そうではなく,そこで起きたことなのだ。ただクライアントには処理できない何事かが起きた。その物語を聞く。ただ,判断しないで聞く。

面白いのは,それでも,クライアントがどう考えても変だと感じるときはある。そんな時は,まだクライアントのことをちゃんと理解できていないのだ,と考え,こう質問する,という。

「それはどんなふうに役立つんですか?」
「そのことがどんなふうに役に立つんですか?」

その役立つものを実現することができる,その「変だと感じる」こと以外の方法を一緒に考えることができる。我田引水だが,くだらないアイデアはない,と思っていて,くだらないアイデアを出された時,「そのアイデアを実現すると何が可能になるのか」と目的を聞き,その目的実現のための,ほかの手段を一緒に考えていこうとするのと,よく似ている。

自分で何とかしてきた重荷が,自力で解決できなくなったから,セラピーにやってくる。そして,自分でやっていけるようになったら,セラピーが終了する。そこにあるのは,問題ではない。そこにあるのは,人生でかかええてしまった重荷にすぎない。

社会構成主義について,レジュメには,

・現実は人々の間で言語(会話)を通して構成される。
・人は他者との会話によってはぐくまれる物語的アイデンティティのなかで,そして,それを通して生きる。「自己」は常に変化し続けており,セラピストの技能とはこのプロセスに参加する能力を意味する。

とある。これを自分流に解釈すると,現実は,その人の中にしかない,だからそれはその人の頭をのぞくしかない。そのために,セラピストは,クライアントに質問し,クライアントの中の現実に,一緒に向き合い,それを解決できる手がかりをクライアントに見つけてもらうようにする(プロブレムトークではなく,ソリューショントーク)。それを,

新しい現実をつくっていく。

と田中ひな子先生は言われたが,

新しい物語に書き換える。

と言ってもいい。そのためには,

・変わりにくい部分ではなく変わりやすい部分に焦点を当てる

で,変化のためには,こう考える。

・変化は絶え間なく起こっていて,変化は必然である。
・例外(問題の起こっていない時,うまくいったこと)を日常化するのが解決である。例外とは,すでに存在している解決である。
・どんな困難状況でも,独りの行動に一つの小さな変化が起きればよい。それによって関係する人々の行動に,さざなみのように,変化を生み出すことができる。
・原因を除去して問題を解決するのではなく,小さな解決を一つずつ構築していく。
・いままでと違うことを行うことより,いままでと同じことを続ける方が容易である。

で,解決思考セラピーとは,

クライアントの望んでいることに基づいて,うまくいっていること(例外)を見つけて,そのための対処行動(工夫・努力)をコンプリメント(ほめてめぎらう)する

となる。そのためのセントラルフィロソフィーは,おなじみの3つである。

①それがうまくいっているなら,それを変えてはいけません。
②もし何かがいったんうまくいったならば,もっとそれをつづけましょう(Do more)
③もしそれがうまくいかないのなら,何か違うことをしましょう。

この日は,いくつかのワークをやった後,
①ソリューショントーク:ミラクル・クエスチョン
②例外探しの質問とコーピングクエスチョン
③スケーリング・クエスチョン
④フィードバックバックと感想
の流れで,セッションをやったが,確か森俊夫先生も言っておられた気がするが,ミラクルが起きた状態を,詳しく聞けば聞くほど,クライアントの中で,何ができるかに気づきやすくなる,ワークの中で,そんなことを実感した。

セラピストはわからないからクライアントに聞く,聞くほどに,クライアントが生きている世界が見えてくる。そうなれば,それを否定する視線が入る余地はない。本気になって相手から浮いてのことを聞こうとしていないから,批判や反論が出る。聴くことの奥深さを改めて再確認した。

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm




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posted by Toshi at 13:37
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