2013年03月31日

生き方が出る


確か,NHKの特別番組で,高倉健が,「その人の生き方が出る」と,演技について語っていたのを覚えている。その時,高倉健は,亡くなった大滝秀治との僅か一言三言のやり取りに,感動して涙ぐんでいた。そこで大滝秀治という人物を,丸ごと受け止め,そのわずかなセリフに,大滝のすべてを注ぎ込んだ,人生を見た,というと大袈裟か。

では,翻って,役者でも,著名人でもない,平凡な自分にとって,おのれの生き方が出る場面とは何か。

ものを食べているときの居ずまいか,
歩いている姿勢か,
ひととしゃべっている格好か,
人を口説いているのめりこんだ口吻か,
些細なことで口論している顔つきか,
肩が触れた程度でいらついている狭量な身構えか,

いやいや,その人の平生の行儀や居ずまいではないし,その人の人品骨柄,出自のことでもない。どんな生まれであろうと,どんなにお行儀が悪かろうと,その人自身の生き方なのだ。あるいは生きざまと呼ぼうか。どんな覚悟で生きているか,その生きざまがあらわに出るのはどういうときか。

たぶん,ひとつ思いつくのは,危機の一瞬だ。非日常になった時,どんな身構えが取れるか,周章狼狽するか,人を押しのけてでも前へ出ようとするか,見かねてわが身を顧みず誰かを背負い込むか,いずれが正しいとか間違っているとかを言うつもりはない。そこに,その人の生きざまが出る,というまでだ。そこで,道徳的なもの言いをする,安全なところから人をけしかけたりけなしたりするタイプの人間が大嫌いだ。戦争を煽る政治家が,真っ先に逃げ出すわけにはいかないことも,特攻隊に涙する政治家は,政治自身が(おのれ自身が)あたら若い者を無理や死地に赴かせるかもしれないことを顧みもしない。映画監督の黒澤明は,戦争中,コネを使って徴兵を逃れた。いわばずるく立ち回って生きのびた。そのことを戦後隠し通した。是非はともかく,そこに生きざまが出ている。どんな傑作を書こうと,どこかにその生きざまの卑しさが出る。

もうひとつは,本音で対面し,対話するときだ。コーチングしかり,カウンセリングしかり,討論しかり,インタヴューしかり,告白しかり,本気で叱るときしかり…。そのとき,おのれがさらけ出される。何も転移・逆転移だけが,おのれがさらけ出されるシチュエーションとは限らない。自分だけが,クライアントの何かに,たとえば,一言,一場面,ある感情等々に反応する。しかし,僕は反応することを悪いこととは思わない。それが,ほかならぬ自分自にちがいないのだから。だから,ファウンデーションを整えたり,自分軸を強化したりする化粧が嫌いなのだ。それは,反応する自分を隠そうとする姿勢だ。自分は隠そうとするのに,クライアントにそれに向きあえなどと,どの口が言うのか。むしろ,クライアントに反応する自分を,その場でさらけ出し,僕は,それに反応してしまいました,といえることの方が大事だ。そう口にしたり,さらけ出していることを自覚することで,その自分の振れや揺れは,自分の振り幅(揺れ幅ではない!)になる。自分のキャパシティになる。のりしろになる。

しかし,それを隠した瞬間,自分は縮んでいく。ますます隠す。あるいは逆に自分を大きく見せようとする。黒澤明が『トラトラトラ!』で躓いたように。その歪みはいずれ,自分に返ってくる。

僕は,いま絶えず,凛としていたい,凛とありたいと思っている。思っているだけだから,生きざまにはなってはいない。あまり好きではないが,松蔭が,草莽崛起といった,草莽の心根に近い。草莽とは草茅,草むら,雑草である。しかし心は千古の憂いを懐く慷慨の処士。威武も屈する能わず,貧賤も移すこと能わぬ,士でなくてはならない。ただし士は,二本差しを意味しない。どんなやくざな奴も,だらしないやつも,士道は「胸」にある,でなくてはならない。やたら勇ましい,大言壮語の猪武者が大嫌いである。それは侍ごっこという。勇ましいことを言うやつに限って真っ先に逃げる。どこかの元都知事が典型だ。暴虎憑河し,死して悔いなき者は,吾ともにせざるなり,である。

それは,人に左右されず,揺るがず,立っている。その位置を保ち続けている。

空海の詩に,

一身独り生歿す
電影是れ無常なり

というのがある,しかもなお,そこには,

遮那阿誰が号(な)ぞ
本是れ我が心王なり

と言い切る自負がある。わが身は一人ぼっちで生まれては死んでいく,まさに稲光のように一瞬のうちに,と言いながら,大日如来とは,元はと言えば,自分の心のことだ。ここにある,と言い切れる自負がいい。士道とは,ここにあり,と胸をたたく気概である。

まあ,空海になぞらえるのは,不遜のきわみで,口幅ったいが,

乾坤に独り
凛として
起つ

こんな心境でありたい。そして,そういう生きざまでありたいし,死にざまでありたい,と念じている。

あるいは,杜甫の,

飄然
思いは群れならず

でもいい。

参考文献;
篠原資明『空海と日本思想』(岩波新書)
村上一郎『草莽論』(大和書房)
四方田 犬彦『「七人の侍」と現代』(岩波新書)

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posted by Toshi at 05:29
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