2013年06月13日

なんだかなぁ


坂野潤治『西郷隆盛と明治維新』を詠む。

なぜ反乱したか,著者はこう言う。

西郷には内乱にまで訴えて実現しなければならないような『目的』は,もはやのこされていなかった。幕府を倒し,大名を倒し,近代的な中央集権国家を樹立するという西郷の夢は,すべて果たされてしまったのである。西南戦争は,西郷にとっては,大義なき内戦だったのである。

そして,桐野利秋ら急進派の暴発に引きずられたのだとする。だとすれば,長州の前原一誠,佐賀の江藤新平と同列の,いわゆる不平士族の乱の中に埋没していく。それが,西郷の虚像を崩し,「実像を再現する」という本書の趣旨からすれば,竜頭蛇尾に終わっていると言わざるを得ない。

更に最大の「征韓論」については,毛利俊彦『明治6年政変の研究』で論証された通り,「征韓」ではなく,「使節派遣」という傍証に,江華島事件に対する対応を,

是迄の友誼上実に天理に於いて恥ずべきの所為に御座候

何分にも道を尽くさず,只弱を慢り強を恐れ候神庭り起こり候ものと察せられ候

の手紙を引くというのでは,少し説得力に欠ける。当事者でない時は,岡目八目,正論を吐くことができる。人とはそういうものだ。

同時に,多くの根拠に,元薩摩藩士の勝田孫弥『西郷隆盛伝』に依拠していることも,いささか気になる。所詮伝記ではないか。上記江華島事件についての隆盛の手紙を載せたことについて,こう持ち上げる。

1895年といえば,日清戦争での日本の勝利はすでに決まっていた。そのような時,この西郷伝の著者は,西郷が「征韓」論者ではなかったことを強調しているのである。

さらに,勝と西郷の最初の会談について,

この会談の重要性を最初に指摘したのは,明治27(1894)年刊の勝田の『西郷隆盛伝』である。

として,そこに同席した吉井友美と西郷の大久保への書簡が収録されていて,最近まで両書簡の関係が明らかでなかった。もっと早くこの書に注目すべきであった,というのである。それは,こうした偉人伝をないがしろにした(?)反省と見れば,妥当なのだが。ただし,論証抜きに,これに依拠して,

西郷の復権と大久保の転換こそが,「維新の大業」の本格的な始動であるとする勝田孫弥の指摘は,的を射たものと思われる。

とするのは,いかがなものであろうか。

それでなくとも,随所に,新書とは言え,歴史家の物とは見えない筆の走りが散見される。たとえば,

1859年初めから丸5年間流刑に処した島津久光には嫌悪の情しか湧いてこないし,その久光に忠勤を励んだ5年間の大久保利通にも,筆者は好感を持てない。

西郷流刑の張本人である島津久光の幕政改革に興奮している勝海舟問いあう人物も,あまり好きにはなれない。

これ以後2年に及ぶ,徳之島,沖永良部島への西郷の流刑は,藩主の実父島津久光の無知と傲慢から出たもので,…とても許せる処置ではない。

等々,まあ私見を入れてはいけないとは言わぬが,あんまりである。それは,別のところにも現れる。たとえば,

ペリーの2度の来航に際して,「尊王攘夷」の本家とも言うべき水戸藩の態度が,攘夷の先送り,いわゆる「ぶらかし論」に転換したのである。

というのはいい,しかし,横井小楠も勝海舟も西郷も棚上げ論である,とまとめるのは,丸めすぎにもほどがある。少なくとも,西郷は知らず,小楠は,

応接の最下等は,彼の威権に屈して和議を唱えるもの。これは話にならない。結局幕府はこれを取った。次策は,理非を分かたず一切異国を拒否して戦争をしようとするもの。これが攘夷派の主張だ。長州が通告なく通過する艦船を砲撃したのはこれだ。これは天地自然の道理を知らないから,長州がそうなったように,必ず破れる。第三策は,しばらく屈して和し,士気を張ってから戦おうというもの。水戸派の主張だ。これは彼我の国情をよく知っているようだが,実は天下の大義に暗い。一旦和してしまえば,天下の人心怠惰にながれ,士気がふるいたつことなど覚束ない。最上の策は,必戦の覚悟を固め,国を挙げて材傑の人を集め政体を改革することである。天下の人心に大義のあることを知らせ,士気を一新することである。我は戦闘必死を旨とし,天地の大義を奉じて彼に応接する道こそが,義にかなうはずだ。

ということを言っている。そして,こういう詩もある。

守るに非ざれば戦う能わず
戦うに非ざれば和する能わず
和は豈に不利の事ならんや
戦守の如何なるかを顧みよ
我が武已に虜を呑めば
和は以て邦家を安んず
看(み)よ看よ今日の和
保たざるは明らかに河の如し

事実は細部に真実がある。細部をおろそかにするのは,真実を求める意思がないことの証明ではないか。まして,小楠,海舟を貶めることは,相対的に,結果として隆盛を貶めている。贔屓の引き倒しとはこのことである。

参考文献;
坂野潤治『西郷隆盛と明治維新』(講談社現代新書)
野口宗親『横井小楠漢詩文全釈』(熊本出版文化会館)
松浦玲編『佐久間象山・横井小楠』(中央公論社)

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posted by Toshi at 05:18
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