2013年07月05日

コンテクスト転換


寺本義也『コンテクスト転換のマネジメント』を読む。

知識がネットワークを通じて,獲得され,創造され,活用される「知識ネットワーク社会」における企業経営課題は,

人々の行為を主体的な知識の創造と活用に向けて,いかに効果的に方向づけ(戦略創造),結合・連関づける(組織化)かにある…。

として,著者は,新しいマネジメントの目標は,持続的な「知的生産性の革新」にあるということができるとして,

あたらしいマネジメントの最大の条件は,創造的でかつ効率的なことであり,組織全体で多様でかつ変換効率の高い知識体系を構築していくことにある。すなわち,組織全体としていかに多様な知識を取り込んでいくか,その多様な知識をいかに変換効率を上げながら,あらたな価値や意味を具現化するすぐれた製品やサービスとして結実させていくか,という二つの課題の同時的な実現が要求される,

という。この場合,知識とは,次のような意味として整理されている。

知識は優れてそれぞれの主体や主体の置かれた文脈に依存した,あるいは関係づけられたものである。また知識は,すでにつくられたものとして,われわれの前に置かれているものではなく,われわれ一人ひとりが,それを解釈し,それに意味を与えるものである。言い換えれば,知識は他者から一方的に与えられるものではなく,個々人が自己の存在を賭けて主体的に創造し,活用するダイナミックな行為に関わるものなのである。

これは,かつて,

知識とは思いの客観化プロセス,

と語った野中郁次郎氏の言とつながるものだ。知識は,あるものではなく,主体的に作り出していくものだ。その意味で,その文脈(コンテクスト)によって,解釈が変わる。逆にいえば,

コンテクストとは,基本的には,ある情報や知識(コンテンツ)の意味に影響を与える(意味づける)ものである。

と言い替えることができる。情報で言えば,金子郁容氏のいう,コード化できるコード情報とコード化できないアナログなモード情報との対比で考えると,通ずるものがある。それは,

http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/prod05111.htm

で触れたところだ。

では,コンテクストの機能をもう少し整理してみるとどうなるのか。

第一は,コンテクストの表示性。人や組織がある情報・知識(コンテンツ)の意味・価値を解釈するときの枠組みとしてのコンテクスト。

第二は,コンテクストの再帰性。ある局面のコンテクストのなかで意味あるものとして行われた行為自体が,その直後の局面のコンテクストを形成する一要素となることを通して,引き続き起こる次の局面のコンテクストを規定する。

第三は,コンテクストの型式性。対話者の間のコミュニケーションにおける背後にある関係性のパターン。

つまり,コンテクストとは,ある情報・知識に特定の意味・価値を与えるための認知上の枠組みであり,結局一つの情報・知識(コンテンツ)は,受け取る人や組織の異なるコンテクストによって意味づけ,価値が異なるが異なれば,解釈が異なり,違う現実が見えるということになる。

そうなると上述のように,

組織全体としていかに多様な知識を取り込んでいくか,

その多様な知識をいかに変換効率を上げながら,あらたな価値や意味を具現化するすぐれた製品やサービスとして結実させていくか,

という課題の実現が企業の生死を決める時代には,コンテンツではなく,コンテクストに着目するのは,一つの慧眼に他ならない。

つまり,「コンテクスト転換のマネジメント」にとって,

まずは,コンテクストの表示性,コンテクストの再帰性,コンテクストの型式性の三つの機能は,二者以上のコミュニケーションにとって重要な要素になる。なぜなら,コミュニケーションにおいて,コンテクストは効率的,効果的なコミュニケーションを成立させる土台となる,「解釈の枠組み」として成立しているからである。つまり,コンテクストをどう共有するかが,鍵になる。つまり何を伝えるか(コンテンツ)ではなく,どう解釈するか,どう見ているかというコンテクストが重要になる。

しかも,マネジメントにとっては,

多様な参加者が既存のコンテクストを共有するだけではなく,さらに進んで,参加者の相互作用を通して,

異なるコンテクストを融合し,あらたなコンテクストを創造する(止揚的融合)するよう働きかけていくことが重要である。なぜならば,…コンテクストの転換による新たなコンテクストの創造は既存のコンテンツに対して,あらたな意味・価値を付与するものであり,そのことによって,組織の学習と知識の創造・活用を促進することにつながるからである。

言い換えれば,

組織が既存のコンテクストの共有化を超えて,参加者間の相互作用を通じて既存のコンテクストを転換し,あらたなコンテクストを創造することによって,より高度で多様な意味・価値をできる限り迅速に創出することこそが,コンテクスト転換のマネジメントの主要な目的なのである。

自己完結した知識・情報から,開放して多様な知識・情報を取り込む。それは人とセットになっている。そのとき,知識・情報というコンテンツではなく,背景になっているコンテクストを開示しあわなくては,コンテンツそのものの再構築にはならない。

コンテクスト転換を重視する著者の主張の背景は,「ネットワーク組織」「止揚的融合」「共進化」という概念にある。いわばこれからの企業のあり方を考えるキイ概念になっている。

特に,共進化。共進化とは,

複数の個体(ないし集団)が各々別個に進化を遂げるだけでなく,個体(ないし集団)間の自由でダイナミックな相互作用を通じて,お互いの進化を促進する状態,

を指し,それは生物学の,

それぞれの種の遺伝的特性の状態が,もう一方の種の支配的な遺伝的特性によってお互いに影響を受けあうような相互作用を持つ二つの種の進化的変化パターン

をから来ている。時間軸で見ると,共進化だが,空間軸で見ると共生になる。そのとき,コンテクストの共有を避けては通れない。

以上の本書の趣旨は大変よくわかる。しかし,事例は,ほぼ十年近く前のもので,仮説の検証としては,いささか説得力に欠けるのが惜しまれる。というか,むしろ今日の日本企業の体たらくをみると,相変わらず,コンテンツのみに走り,コンテクスト転換をなおざりにしたつけ,と見えなくもない。

それは,あるいは明治以来の日本全体の桎梏といえなくもない。そのくびきから,まだわれわれ一人一人が抜け出し得ていない。


参考文献;
寺本義也『コンテクスト転換のマネジメント』(白桃書房)
金子郁容『ネットワーキングへの招待』(中公新書)


今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm




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posted by Toshi at 05:19
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