2014年03月01日


渡邊大門『信長政権』を読む。

このところ連続して,読み逃していたのを拾い出して読んでいる。これもその一冊。

本能寺の変に焦点を当て,信長政権というものに迫っている。

著者の結論は,

信長の「天下一統」(あるいは戦争)の根幹には自己の権力欲と言う,極めてパーソナルなものがあった。「天下一統」後における展望や構想などがはっきりと見えてこない。…際限なき勢力拡大欲である。

信長の政権はパーソナルなものから出発したが,領土拡大とともに分国支配を配下の者に任せざるを得なくなった。そして,統治を任された配下の大名たちは,一定程度の自立性を保ち,領国支配などを行った。一見して信長独裁ではあるが,実体は多くの配下の大名たちに支えられていたのである。しかし,譜代や一門が優遇されたのに反して,外様は危機感を抱いていた。…荒木村重,別所長治はその代表であり,謀反の危険性は絶えず内包していたのである。意外と政権の基盤は,脆弱であったと言えるかもしれない。

と言う。そして,信長の対室町幕府,朝廷に対しても,それを潰そうとか,変えようとかとする姿勢はなく,

温存しながら自らの権力を伸長しようとしていた,

とみる。たとえば,義昭と交わした五カ条にわたる条書には,第五条に,

天下静謐のため,禁中への奉仕を怠らぬこと

を,義昭に求めている。著者は言う,

信長にとっての天下とは,少なくとも朝廷と幕府との関係を抜きにしては語ることができなかった。しかもその政策は意外なほど保守的である。

その意味で,本能寺の変の朝廷黒幕説はほとんど意味をなさないし,変後の光秀の行動を見る限り,突発的に決断したとみるのが妥当だ。

与力であるはずの,しかも娘婿でもあり舅でもある細川藤孝・忠興,筒井順慶が加担しなかったばかりではなく,摂津の,高山高友,中川清秀,池田恒興といった有力武将は誰一人積極的に加わらなかった。

光秀は,髷を切って出家した細川藤孝・忠興親子にあてた手紙が残っているが,そこでは,

摂津の国を与えようと考えているが,若狭がいいならそう扱う,
私が不慮の儀(本能寺の変)を行ったのは,忠興などを取り立てるためである,

等々と哀願に近い文面である。ここに計画性を見るのは難しく,著者が,

光秀が本能寺の変を起こしたのは,むろん信長がわずかな手勢で本能寺に滞在したこともあったが,他にも有力な諸将が遠隔地で戦っている点にも理由があった。彼らが押し寄せるまでには時間がかかると予測し,その間に畿内を固めれば何とかなると思ったであろう。こうした判断を下したのも,変の結構直前であったと考えられる。

と言うとおりである。しかし,

周囲の大名が積極的に光秀に加担しなかったところを見ると,光秀の謀反には無理があり,秀吉のほうに利があると考えたと推測される。

状況を見る限り,もともと無理筋の計画だったというほかはない。ところで,その光秀であるが,著者は,

これまで光秀は(室町幕府の)外様衆・明智氏を出自とすると考えられてきたが,それとは程遠い存在と言える,

のではないか,と名門の出自に疑問符を投げかけている。

つまり,幕府外様衆の系譜を引く明智氏ではなく,全く傍系の明智氏である可能性や,土岐氏配下の某氏が明智氏の名跡を継いだ可能性も否定できない。

と。つまりは,どこの馬の骨かははっきりしないということだ。だから,

いずれにしても当時の明智氏は,全くの無名の存在であった,

ということになる。だからこそ,変の直前の家中軍法で,

既にがれきのごとく沈んでいた私を(信長が)召し出され,さらに多くの軍勢を預けてくださった,

と,光秀自身が書いているのは,重みのある言葉なのだ。

光秀どころか,秀吉,滝川一益等々,信長家臣の多くは,氏素性のはっきりしないものが多い。著者は,高柳光壽氏の,

光秀の性格は信長に似ている,

を引き,こう付け加えている。

ちなみに秀吉も庶民派的な明るい性格のイメージがあるものの,実際は真逆であった。秀吉は戦場において磔刑を行い,抵抗するものには厳しい罰を科した。(中略)高柳氏が指摘するように,信長がこうした「アクの強い人物」を好んだことには注意を払うべきである。

主人は凶暴だが,部下もまた,それに似た凶暴な人物が集められている。つまり,世上言われるほど,光秀が,名門土岐氏出身の知識人というわけではないということだ。そういう先入観を取ってみれば,目の前の天下(ここでは中央すなわち畿内と意味)取りの千載一遇のチャンスを逃すはずはない,のではあるまいか。

参考文献;
渡邊大門『信長政権』(河出ブックス)


今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm


posted by Toshi at 06:12
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