2015年10月21日

古文真宝


小説を読んでいて,

「古文真宝な顔」

とあった。どんな顔なのか。

古文真宝とは,辞書(『広辞苑』)等々によると,

先秦以後宋までの詩文の選集。宋の黄堅編といわれる。前集10巻は漢から南宋までの古体詩,後集10巻は戦国時代末から北宋までの古文の模範とするものを集めたもの。各時代の様々な文体の古詩や名文を収め,簡便に学習することができたため,初学者必読の書とされて来た。日本には室町時代のはじめごろに伝来した。五山文学で著名な学僧たちの間より広まり,江戸時代には注釈書が多く出された,

とあり,さらに,

(古文を収めて難解であることから転じて)まじめくさって,かたくるしいこと,また,頑固な人,

とある。

まじめくさる,

かたくるしい,

はわかるが,かたくるしい,と

頑固,

になるのか?それは意味が少し違いはしまいか,というのがそもそもの疑問。

『古文真宝』は,

「前集,後集,それぞれ詩形別,文体別に分類,編集している。もともと塾などの教科書としてつくられたものであるが,各時代の代表的な詩文を多く収めてあるので,主として唐,宋時代の文を集めた『文章軌範』とともに,元,明にかけて広く流行した。」

とあるので,まあ,テキストということになる。

『大言海』には,こうある。

「書名を固くるしき意に用いるに,延喜式という語あり,経書を青表紙という類」

として,

固くるしく,真面目くさりたる意に言う語,

と意味を載せる。そして出典として,『卜養狂歌集』から,

「或る人,蓮を絵にかきて,ダテなるまことに前書きして,歌詠みてくれるという,もとより,ダテは白蓮の,まことに難しき古文真宝を,蓮は淤泥の中より出で,泥に染まらず,花の君主なりと云々」

あるいは,『武道伝来記』より,

「隈なき月に,よもすがらの大踊り,余念なく眺めしとき,常は,古文真宝に構えし男も,云々」

として,古文真宝とは,

日本の俗語に,初心に,かたい男をいう,

とある。やはり,辞書(『広辞苑』)のいう,

まじめくさって,かたくるしいこと,

が,

また,頑固な人,

となるのには少し飛躍がある気がする。

堅苦しいの語源は,

「堅い(うちとけない)+苦しい」

で,うちとけず,しかつめらしく,窮屈,という意味になる。「固」と「堅」を当てるが,どう違うのだろう。

「固」は,

「古」がかたくひからびた頭蓋骨を描いた象形文字なので,「囗(かこい)」を加えて,「周囲からかっちりと囲まれて,動きの取れないこと」という意味になる。だから,

しっかり安定して動きも変わりもしない,

という意味になる。

「堅」の,「臤」は,臣下のように体を緊張させてこわばる動作を示す。「土」ヲコを得て,かたく締まって,こわしたり,形を変えたりできないこと,という意味で,

しまってかたい,
こちこちにかたい,

という意味を持つ。因みに,「硬」は,「更」が,「丙(ぴんとはる)+攴(動詞記号)」で,かたくぴんとはること。「石」をくわえて,石のように固く張りつめること。で,意味は,

しんがかたい,
真が張りすぎて動きが取れない,

という詞意味だが,「強硬」「硬直」とは使うが,しかし,「硬くるしい」とは,あまり使わないようだ。材質というかそれ自体の硬い柔らかいを指しているようで,この辺りの微妙な使い分けは,よく分からない。

話を戻すと,かたくるしいが,

ただ材質のことだけではなく,囗や土を加えて,身動きできない,というニュアンスがある。だとすると,結果として,

頑な

に通じるのかもしれない。「頑な」は,

「カタ(偏る)+クナ(くねる,曲がる)」

で,曲がって偏る意から来ているらしい。偏屈,ひねくれ,になるが,しかし「頑」の字は,「元」が,人の形の頭のところを印をつけた形を描いた象形文字で,丸い頭のこと。「元」が,「はじめ」の意で用いるようになったため,元の原義は,これに「頁(あたま)」をそえた「頑」の字で表すようになった。「丸い頭」の意から転じて,融通のきかない古臭い頭の意になった。

「かたくな」に,「頑な」と当てたことで,曲がっているというよりも,融通がきかないという意味が強まったのではないかと想像される。「頑」の字には,「頑健」「頑丈」のように,がっしりしている意味もあるのだから。

参考文献;
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)







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posted by Toshi at 05:42
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