2016年03月03日

そらごと


「そらごと」は,

空言,
虚言,

と当てるのと,

空事,
虚事,

とあてるのとでは,意味が違う。「言」と「事」の字から,推測はつくが,辞書(『広辞苑』)によれば,

空言

は,

事実でないことば,
うそ,

とあり,

空事

は,

事実にもとづかないこと,
つくりごと,

とある。口に出すか,表現するかは別にして,その表現することを,

空言,

と言い,

表現されているものを,

空事,

と,使い分けていることになる。語源は,空言は,

「空(いつわり,うそ)+言(ことば)」

空事は,

「空(空虚,うそ)+事(事件)」

とある。因みに,漢字「空」の字は,

「会意兼形声。工は,尽きぬくいを含む。『穴+音符工』で,つきぬけて穴が空き,中に何もないこと」

という原義。漢字「事」は,

「会意文字。『計算に用いる竹のくじ+手』で,役人が竹棒を筒の中に立てるさまを示す。のち人の司る所定の仕事や役目の意味に転じた。」

とあり,漢字「言」は,

「会意文字。『辛(切れ目をつける刃物)+口』で,口をふさいでもぐもぐいうことを音・諳といい,はっきりかどめをつけて発音することを言という」

とある。

ところで,空事は,

絵空事,

という言い方があり,辞書(『広辞苑』)には,

絵は画家の作為が加わった実物ではないということ,転じて,物事に虚偽,誇張の多いこと,架空の作りごと,

となる。『デジタル大辞泉』には,

「絵には美化や誇張が加わって、実際とは違っている意から」

と注記が付いて,

大げさで現実にはあり得ないこと。誇張した表現」

とあり,「空事」を更に誇張した言い方になる。『古語辞典』には,「ゑそらごと」として,

「絵に描かれたものが実際とあわないこと」
「物事が虚偽・誇大であること」

とある。これだと意味がよく分からないが,『大言海』は,

「絵は,写生のみにては,見どころなければとて,実形に多く作意,又は,想像を加へて,写するものなるを云ふ。丹青過実」

とある(因みに,「丹青」とは,赤と青の意味から絵の具の意味に広がったが,『日葡辞典』には,「絵画」とあり,「丹青過実」とつながる)。『大言海』は,さらに,『古今著聞集』から,

「その物の寸法は,ぶんにすぎて,おほきに書きて候こと,いかでか實には,さは候べき,ありのままの寸法に書きて候はば,みどころもなきものに候ゆゑに,ゑそらごととは申すことにて候」

を引用してる。この意味ならば,誇大とか,虚事という意味合いは出ず,絵の表現技法を言っているにすぎない。

もともと,『古語辞典』も,『大言海』も,

「虚言」
「空言」

しか載せていない。「言」が「事」だからというよりは,もともと言葉に出すこと自体を,

空言,

と言っているので,口に出した「空言」の中身を,

空事,

と区別する意味があまりないからではないか。辞書を信ずるなら,ここからは,億説になるが,

絵空事,

空言

が重なって,

空事

という言い方が,あるいは生まれたのではないか。そのために,

絵空事

の意味が,

空事

にひっぱられたのではないか,と。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)


ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm


posted by Toshi at 06:19
"そらごと"へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: