2016年06月09日

アルゴリズム


デイヴィッド・バーリンスキ『史上最大の発明アルゴリズム: 現代社会を造りあげた根本原理』を読む。

アルゴリズム.jpg


本書の原題は,

The Advent of the Algorithum

「出現」というか,どうやら「降臨」という含意らしい。副題が,

The Idea That Rules the World

世界を制御する,というより,規定するというか,世界を解くための手順,ということになる。しかし,思うに,それをするには,それ自体をメタ化するポジションに立たなければ,それを解くことはできない。

本書の冒頭は,

「60年以上前,数理論理学者は,アルゴリズムの概念を精密に定義して,効率的な計算という古来の概念に実質のある内容を与えた。その定義がデジタルコンピューターの創造につながった。思考が自らの目的に物質を従わせた興味深い例である。」

で始まる。しかし,

「物理法則は時空のなかには存在しません。世界を記述するのであって,世界のなかにあるわけではありません。」

と言わしめているように,最後の方で,こう述べている。

「アルゴリズム,情報,記号のパターンが,とくに分子生物学的レベルで繰り返し現れるのを見ると,わが意を得たりという感じがするが,このパターンがどうしてここまで増えたのか,一般的に私たちにはわかっていないという,往々にして忘れがちな事実を心にとどめておくことが大切だ。…生物はなんといっても具体的で複雑で自律的な三次元物体であり,自活できる何か,あるいは誰がだ。生物は,…好きなように動きまわる世界―私たちの世界―に属している。一方,アルゴリズム,情報,記号は,抽象的,一次元,完全に静的なものであり,先の世界とは大きく異なる記号世界に属しているのだ。こうした記号が有機体を生み出し,その形態と成長を支配し,自らのコピーを未来に残すなかで,分子生物学の核心にどんと腰をすえている大きな謎に私たちは気づかされる。いま述べた過程には,命令が与えられて実行され,問いが発せられて,その答が出され,約束が成されて守られる,そういう世界に特徴的ではあるものの,純粋に物理的な客体にはけっして見られない一つのプロセスが隠れている。コンピューターが唸り,人間がそれを見守るという相互作用のあるその世界では,知能は常に知能自身に依存しており,記号体系が目的達成するというのは,目的を達成することでなされるのである。これはパラドクスではない。…200年前,スイスの生物学者シャルル・ボネ―ベイリーの同時代人―は,『脳,心臓,肺その他多くの器官の形成を支配する機構』についての説明を求めた。それに応える,力学による説明はまだ得られていない。情報がゲノムから有機体に移るとき,何かが与えられ,何かが読まれる。また,何かが命じられ,何かがなされる。しかし,誰が何を読んでいて,誰が命令を実行しているのかは,依然さだかでない。」

と。だから,

「アルゴリズム,情報,記号の概念は生命の核心にある」

けれども,

「この三つがどのように有機体を形成するのかは,知能がどのように効果を現すか」

は謎の一部であると。

「物理法則でプレートテクトニクスの複雑性は説明がついても,リボゾームの生成は説明がつかない」

つまり,まだ,

「物理法則から私たちを取り巻く世界…にいたる推論の階段」

は組み立てられていない。で,

「ステーヴン・ワインバーグの忘れがたい言明を修正しよう。科学に期待できることは,せいぜい,物理の基本法則と偶然,それに計算方法,アルゴリズム,専門化されたプログラム言語,数値的統合の手法,巨大なお決まりのプログラム(マテマティカやメープルといったもの),コンピューターグラフィクス,内挿法,コンピューター理論の近道,さらには数学者と物理学者がシミュレーションのデータを一貫したパターンや示唆に富む対称性と連続性を具えたストーリーに変換しようとする,精一杯の努力の寄せ集め等々の手段に基づいて,あらゆる自然現象を説明することくらいだ。」

と,皮肉を込めて結論づける。

http://ppnetwork.seesaa.net/article/437240511.html

で触れたように,ゲーデルのしたことは,

「基本的には,数学におけるメタフィクションに他ならない。」

のであり,「数学の『外』に出て,…数学の全体像を眺める」ことである。そして,テューリングは,公式や推論規則といった道具の代わりに「計算する機械」,「テューリング機械」を考えた。その視点の問題に行きつく,と思い知らされる。

著者は,西洋世界での偉大な概念を,

微積分,

アルゴリズム,

と言い,「三つめは現れていない」という。そして,

「アルゴリズムは,一組の規則であり,規定であり,行動規範であり,指針であり,結びつけられ制御された指令であり,規約であり,生命がさえずるカオスに複雑な言葉のショールを掛けようとする努力」

であり,その努力のプロセスを,ライプニッツから始める。

ペアノ,
ブルーノ,
フレーゲ,
ラッセル,
ヒンベルト,

と経て,ゲーデル,チャーチ,テューリング,と列伝が続く。しかし,著者は,

「ゲーデルは,成果を生むのに必要なエネルギーを得るために強い向精神薬を服用し,1930年代を通じて各地のサナトリウムを転々とせざるを得なかった。チャーチ自身は自分の生活を記号の追求に従属させ,自分の記号論理研究の一環として人生をおくった。“単純さ”ということについて急進的な意識を持ち,孤独に生きたテューリングは,最後には,生きるより死ぬほうが単純であることを受け入れた。深遠かつ強力で,論理を引き起こす学問分野として数理論理学が誕生しようとしていた時期を調べると,論理学をつくった人々は,ほとんど例外なく,生みの苦しみを人格に反映させていた。神経衰弱になる者もいれば,完全に狂ってしまう者もいたし,…酒や薬に逃避するものもいた。」

と,しかし,その結果,

「世界各地の論理学者が々概念領域を探った結果,アルゴリズムを体系化する作業はわずか数年で完了」

するに至る。そこから,

エミル・ポスト,

が,

ポスト生産方式(プロダクション)

と呼ばれる仕事をなす。テューリングマシンとの違いを,著者は,

「テューリングマシンは理想化されたコンピューターであり,テューリングマシンにはハードウエアとソフトウエアのあいだにはっきりした区別がある。テープ読み取りヘッドはハードウエア,指示はソフトウエアだ。しかし,ポストの機械は全く象徴的なものである。ハードウエアは極限にまで縮小してしまっている。人間の作業者は指示にしたがうためにだけいる。この点から考えれば,ポストはデジタル・コンピューターよりむしろそのプログラムを先取りしたものをつくりだしたのだ。」

とし,「記号で表される規則にしたがって記号が記号によって衝き動かされる宇宙にある」機械を創造したとする。そして,

ゲーデル,
チャーチ,
テューリング,

にポストを加えた四人を,

アルゴリズムの定義,

を四通りで与えた人物,とした。

「この四つの定義は“四つの言い回しによって一つの概念を定義している” という意味で等価であることに気付いた時点で,『劇的な統一』をはたした,と。それを,デジタルコンピュータ―として完成させたのが,『その深みのなさを速さと守備範囲の広さと数学上のテクニック』で補った」,

フォン・ノイマン,

ということになる。

ボルツマン,
シャンクン・マ,
シャノン,

を経て,ニューラルネットワークまで至る。しかしいまだ,

心のアルゴリズム,

は見つかってはいない。ペンローズは,

「意識は計算的なものではありえない」

という結論を下しているという。しかし,著者は,

「心に属する概念と数学上の概念をへだてる石だらけの土地は,不毛なものだと思われがちだが,現代数学はアルゴリズムの概念のなかで知能の概念そのものの存在証明を示す。」

といい,現時点の到達点を,こうまとめている。

「アルゴリズムは記号を操作するための方法である。だが,これは,アルゴリズムがなにをするかを言っているにすぎない。記号は,…世界を反映するためにある。情報を伝える手段なのだ。(中略)クロード・シャノンが情報を非公式な概念から数学上の第一級の概念に格上げしたことは,…別の目的にも役立った。複雑性を,測定可能であるため基本的なものとみなされる属性の一つとすることを可能にしたのである。(中略)ロシアの大数学者グレゴリー・コルモゴロフと,当時ニューヨーク市立大学にいた学生グレゴリー・チェイティン(中略)は同時期に,ランダムさと複雑性の間に親和性を認めた。(中略)事物の複雑性は事物が記述される状況によって測ることができるのだ。(中略)そこで,…二進数(バイナリ―)数列―0と1の列―に注目する。『ある記号列がそれより著しく短いコンピュータ―プログラムによって生成できる場合,その記号列は単純であり,そうでなければ複雑である』と…。(中略)
いま述べた定義づけが劇的な印象を与えるのは,そこに二重の還元手続が含まれているからだ。事物のなかに潜む情報は,二進法数字の列によって,それらを制御する記述はコンピュータ―プログラムによって書き表される。しかし,コンピュータープログラム自体も,記号列として書き表すことができるのだ。今や,宇宙に存在するお馴染みのものは取り去られ,ランダムさと,複雑性,単純性,情報が,…記号列の穴の上で踊る。
この複雑性という概念によって,ある程度まで,数理科学が陥っている普通の人の興味との乖離の説明はつく。」

さて,ここで,求めているのは,やはり,

「私どもは根究極的な統一理論を探し求めているのです。」

なのである。乞うご期待,である。

参考文献;
デイヴィッド・バーリンスキ『史上最大の発明アルゴリズム: 現代社会を造りあげた根本原理』(ハヤカワ文庫 NF )

ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

posted by Toshi at 05:25
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