2016年06月30日

えぐい


「えぐい」は,「えごい」とも言うが,

刳い,
蘞い,
醶い,

等々と当てられる。『広辞苑』は,「蘞い」と当てて,

あくが強く,のどをいらいらと刺激する味がある,いがらっぽい,
気が強い,また,冷酷である,

と意味を載せるが,一般に流通している意味と,微妙に違う。『大辞林 第三版』は,

刳い,
蘞い,
醶い,

と当てる字を列挙し,上記の他に,

どぎついさまを俗にいう,

という意味を載せる。「蘞」の字は,『字源』には,「レン」と読み,訓読みは,

やぶからし

である。

「蔓草の一。やぶからし。びんばふかづら。葉は五六裂し,夏四弁の淡紅色の小粒花をむらがりつく。根茎を薬用とす」

とある。なお,

白蘞(びゃくれん)は,薬草。やまかがみ。

とも。白蘞(ビャクレン )は,

http://nssnet.co.jp/index.php?%E7%99%BD%E8%98%9E

に,

「ブドウ科のカガミグサの肥大根を乾燥したものです。」

とあり,別名,白草、菟核(とかく)、崑崙,とあり,性状として,

「ブドウ科カガミグサの肥大根を乾燥したもので、『神農本草経』の下品に収載される。乾燥した塊根は紡錘形を呈し長さ3~12㎝、直径1~3㎝。重なりあう外皮は紅褐色でシワがあり脱落しやすい。内面は淡紅褐色。縦切りにした切面は、周辺が常に巻き曲がり、中部に突起した稜線が1本ある。」

さらに,

「薬味:苦・辛・(甘)」

と載る。なかなか複雑な味だ。

「えぐい」に当てる,「刳」の字は,「えぐる」と訓むが,

「夸(か)は,『大+音符于』の会意兼形声文字。股を大の字に大きく開くこと。跨(コ 大股にまたぐ)の原字。刳は『刀+音符夸(大きく⌒型に開く)』で,股を開くように刀で∧型にさき,または∩型にえぐること」

とあり,まさに抉る,という意味だ。抉られるような味がする,という意味で当てたのだろうか。

「醶」の字は,「ゲン」と読むらしいが,手元の漢和辞典には出ていなかった。

「えぐい」の語源は,

「エグルの形容詞」です。喉をえぐるような嫌な味を言います。植物名ヱグの形容詞化説もありますが,特殊な植物なので疑問です。」

とする。そして,「えぐる(抉る・刳る)」には,

「語源は,『エル(彫る)+クル(刳る)の複合語』です。彫り取り,刳りぬく意です。心に激しい苦痛を与える意です。」

とあり,それに端を発しているという説である。『大言海』も,

「ゑぐる意かと云ふ」

と,「抉る」説を取る。しかし,『大言海』自身が,「ゑぐ」を,

「葉は藺に似て小さく,根に,白く小さき芋ありて,味すこしくゑぐし」

と書くように,これはありふれたもので,,特殊ではなかったのは,上記の薬草としての使われ方から見て明らかである。『古語辞典』には,「ゑぐ」として,

「カヤツリグサ科の多年草。浅い水中にはえ,食用にする。」

とあり,「ゑぐし」を,

「植物名のヱグと同根」

として,

「あくが強く,舌を刺すような味である。」

とする。

どうやら,「え(ゑ)ぐい」は,古くから使われた言葉で,当てられた漢字から見ても,「えぐみ」,

蘞味,
醶味,

という味覚から来たものらしい。その味の不快な苦みから,

どぎついさまを俗にいう,

というように,広がったものだろう。『古語辞典』にも『大言海』にもそういう意味は載らないが,『江戸語大辞典』には,

ゑごい(蘞い),

として,「ゑぐいの転」として,

あくが強く,のどをいらいらと刺激するような味である。えがらっぽい,

の意の他に,それが転じたものとして,

ひどい,酷である,えげつない,

という意味が載る。江戸時代には,すでに,いまふうの,「えぐい」の使われ方があったと見える。

「芋の親嫁にはゑごくあたるなり」

と,味の「えぐい」と掛けて,「ひどい」という意味の句があり,一般的だったことが知れる。それが,昨今また,はやりだした経緯を,

『日本語俗語辞典』

http://zokugo-dict.com/04e/egui.htm

は,平安時代からあった言葉が,80年代に,別の,

「気色悪い」「きつい」
または,
「すごい」こと,

として使われるようになったと,次のように説明する。

「えぐいとは本来『あくが強く、喉や舌を刺激するような味がする』という意味(この意味では平安時代から使用)だが、これが転じ『気色悪い・気味が悪い』更に『(気色悪いほど)残忍な・残虐な』『きつい』『きびしい』『つらい』など様々な意味で使われるようになる。1981年に女優:中原理恵がコンタック600のTVCMで『えぐいんじゃないの~』と言ったことから流行語になった。また、同じ頃えぐいは本来の意味とは全く異なる『(いい意味での)凄い』『かっこいい』という意味でも使われるようになる(TVCM自体は本来の意味で使用していたため関連性はないと思われる)。現在もえぐいは様々な意味で若者を中心に使用されるが本来の意味を知っている人は減少している。」

『デジタル大辞泉』は,そうした風潮を反映して,「えぐい」に,味以外に,

俗に、むごたらしいさま。また、どぎついさま。
我が強くて思いやりのないさま。きつい。

という意味を加えている。ただ,「えぐい」という言葉の指示する中味は,ある意味で,世代間,仲間内等々,文脈に強く依存しているらしく,

http://d.hatena.ne.jp/coconutsfine/20081213/1229178925

「福岡から関西に出てきて10ヶ月近く経ち、関西弁に大分なれてきた。…しかし、関西弁の中でもなれない表現が『えぐい』という表現で、いまだにその意味が理解できない。…いろんなものが『えぐい』感じになるらしく、『ほんまえぐい授業やでー』とか『マジでバイトえぐいわー』とかみたいな感じで使われていて、しかも文脈によって『きつい』とか『すごい』とか何がなんだかわからない感じになる。」

というのが載っている。ある意味,

やばい,
かわいい,

と同じく,ひとつの言葉で済ませている簡略表現(僕には貧弱に見えるが)の一種なのだろう。その分,使う人と文脈で,小さな仲間内で通じる意味が多種多様になるのだろう。

参考文献;
簡野道明『字源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

posted by Toshi at 04:37
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