2016年07月01日

しぐさ


「しぐさ」は,

仕種,
仕草,
科,

と当てる。辞書(『広辞苑』)には,

ある物事をする時の動作や表情,
(「科」とも書く)舞台における俳優の表情・動作,所作,

とある。「江戸しぐさ」について,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/407015947.html

で触れた折にも書いたが,「しぐさ」という言葉自体が新しいものなのではないか,という気がする。「しぐさ」は,『古語辞典』にも,『江戸語大辞典』にも載らない。

「しぐさ」の語源は,

「『シ(為・サ変動詞スルの連用形)+クサ(物事の種)』です。笑いや感動の種となる役者の身振り,所作を言います。せりふ(以外)の表現方法です。」

とある。せりふについて,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/437819048.html

で触れた折,「科白」と当てるのは,

「『科白』を中国語からの借用で、中国では『科』は劇中の俳優のしぐさ、『白』は言葉のことで、俳優のしぐさと台詞を意味するが、日本ではセリフに当てる漢字として用いられたため、しぐさの意味は含まれていない。」

と,

『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/se/serifu.html

にあり,「科」の字は,

「『禾(いね)+斗(ます)』で,作物をはかって等級をつけることを示す,すべての物事の等級を科という。」

で,通俗的に,

しぐさ,芝居で,俳優が行う動作,

とあり,「白(せりふ)」で,「科白(かはく)」で,「しぐさとせりふ」とあるので,「科」の字を「しぐさ」と訓ませる意味がある。

『大言海』には,

しぐさ 「仕種」をあて,テダテ,シカタ,シウチ
しぐさ 「科」をあて,所作,ミブリ

と区別してあげる。どうも,

しぐさ

は,「仕種」と当てるのが古いように思う。その意味は,

テダテ,

である。身振りには,古くは,

所作,
あるいは
しわざ,
あるいは,
身振り,
あるいは,
こなし,
あるいは,
立ち居振る舞い,

という言い方をしたのではないか,と感じる。「所作」は,辞書(『広辞苑』)には,

(仏)身・口(く)・意の三業を能作というのに対して,その発動した結果の動作・行為をいう。転じて読経・念仏など。
仕事・生業,
しわざ,ふるまい,身のこなし,

とある。『古語辞典』だと,このほかに,

仕事,特に生業,
演技,
歌舞伎の舞踊,

という意味が加わる。因みに,歌舞伎の舞踊,というのは,

所作事,

の意味で,『世界大百科事典 第2版』に,所作事について,

「歌舞伎舞踊のこと。〈所作〉また〈振事(ふりごと)〉〈景事(けいごと)〉とも。歌舞伎の文献では1687年(貞享4)の《野良立役舞台大鏡》にみえるのが古く,所作事ははじめやつし事として,職業の意味での所作から,職業とくに職人の動きを舞踊に写したものであった。その後,しだいに歌舞伎舞踊一般の総称となるが,おもに長唄物をさしていい,浄瑠璃物は単に浄瑠璃または浄瑠璃所作事という。振事は,歌舞伎舞踊の動きが物真似的な〈振り〉にあることから,また景事はとくに上方で,道行の景色を舞うことからいう。」

とある。

「しわざ」は,

仕業,
為業,

と当て,辞書(『広辞苑』)には,

「シはサ変動詞『す』の連用形」

で,

するわざ,また,したわざ,行為,

という意味で,現代では,多く人にとがめられるような行為について使うことが多い。しかし,現代では,

しぎょう,

と訓んで,

機械の操作をすること。車両を運行すること,

という意味で使う方が多い。

身振り,

という言い方は,昔からある。辞書(『広辞苑』)には,

身を動かして感情・意志などを表すこと,また,その身のこなし,
訳者などのしぐさをまねること,
身のなりふり,身なり,

とある。「振る舞い」の語源は,

「振るひ+舞うの連用形」

で,

「鳥が羽を動かして飛び回る意」

『古語辞典』も,同様に,

「振ひ舞ひの約で,鳥が羽を存分に振って空を自由に舞うのが原義」

としている。もともとは,「大盤振る舞い」という使い方が残っているように,

もてなし,
御馳走,
ふるまい酒,

等々の意として使われていた。で,同じ「行い」の意でも,

人目につくような行動,

という含意があるようである。むしろ,

こなし,

という言い回しが,いちばん「しぐさ」という表現に近いのではないか。「こなす」は,

熟す,

と当て,語源は,

「『コ(細・小)+なす(為す)』で,細かく砕くが本義です。土をコナス。木を倒してコナス。処理する。取り扱う身のコナシ。こなれる(消化)等々も同源です。」

とある。だから,

こなれる,
自分の思うままにうまく取り扱う,

という意の他に,

立ち居振る舞い,特に歌舞伎で役者の演ずる身振り,しぐさ,

という意味になる。『大言海』が,

着こなし,為なしの略,

とするのがいい。立ち居振る舞いは,

「タチ(立ち)+イ(居,行動)+振舞(行動)」

で,

立ったり座ったりする動作,

を意味する。こう見てみると,

所作,
仕業,
身振り,
振る舞い,

のどれをとっても,

しぐさ,

という言い方の自然さにはかなわないようである。強いて言えば,

(身の)こなし,
立ち居振る舞い,

が近いが,『日本語語感の辞典』の言う,「しぐさ」という言い方の,

「いくぶん古風なな感じの柔らかい和語表現」

に代わる適当な言葉は,残念ながら,見つからない気がする。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
中村明『日本語語感の辞典』(岩波書店)


ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm

posted by Toshi at 04:47
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