2016年08月25日

臍で茶を沸かす


「臍で茶を沸かす」

は,

「臍が茶を沸かす」

とも,

臍茶,

とも言う。

「おかしくて仕方がない,または,ばかばかしくて仕方がないたとえ。多く嘲りの意をこめて使う」

と,『故事ことわざの辞典』には載る。『故事ことわざ辞典』

http://kotowaza-allguide.com/he/hesodecha.html

には,

「大笑いして腹が捩よじれる様子が、湯が沸き上がるのに似ていることから。」

と注釈している。

似た言い回しに,

臍が茶たいて西国せんと言う,
臍が入唐渡天(にっとうとてん)する,
臍が宿替え(店替え)かる,
臍が四つ竹を打つ,
臍が笑う,
臍が茶を挽く,

等々がある。

http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1034110450

には,

「元々の語源は『へそを茶化す』のようです。江戸時代の浄瑠璃に出てくる言い回しで、『へそをばかにして大笑いする』という意味があります。 当時の人は他人に素肌を見せる機会が少なかったため、もし、へそが見えようものなら『へそを見せやがった』と言って大笑いしたとのことです。つまり、へそが茶化されたと言う事ですが、それが時を経て徐々に変化し、『茶を沸かす』となったようです。」

「臍を茶化す」について,

http://www.za.ztv.ne.jp/vgv7ynpq/homepage/zatugaku/zatugaku-list/heso-tya.html

にも,

「『へそを茶化す』とは、江戸時代の浄瑠璃に出てくる言い回しで、意味は『へそをばかにして大笑いする』ということ。 今のように若い女性の水着姿なんてありえない時代に、 当時の人は他人に素肌を見せるという事が滅多になかったため たまにへそでも見えようものなら『あの野郎、へそを見せやがった』と言って大笑いしたのです。 つまり、へそが茶化されたと言う事ですが、それがいつしか『茶を沸かす』となったのでした。」

と載る。この辺りの真偽は,さておくとしても,「茶々を入れる」

http://ppnetwork.seesaa.net/article/440686901.html

で触れたように,

「茶」の自体には,からかう含意はないのに,『古語辞典』には,

ちゃり,

という動詞が載り(『広辞苑』では「茶利」と当てる),

ふざける,

という意味だが,その名詞は,

滑稽な文句または動作,ふざけた言動,おどけ,

という意味が載る。どちらが先かはわからないが,あわせて,

(人形浄瑠璃や歌舞伎で)滑稽な段や場面,また滑稽な語り方や演技,

という意味が載る。歌舞伎や人形浄瑠璃から出て,「ちゃり」がふざける意になったのか,ふざける意の「ちゃり」を,浄瑠璃などで転用したのかは,ここからはわからない。『大言海』は,「茶利」を,

「戯(ざれ)の転」

として,

洒落,おどけ口,諧謔,又おどけたる文句,

という意味を載せる。しかし,『江戸語大辞典』は,

操り・浄瑠璃用語。滑稽,道化,

と載る。どちらが先かは,つかめない。

茶利語り,
茶利声,

は,そういう滑稽な語り口や声を指す。なにはともあれ,ともかく,「茶」には,

ふざける,

含意がつきまとうらしい。『江戸語大辞典』は,「茶」の項に,

遊里用語,交合,
人の言うことをはぐらかすこと,
ばかばかしい,

という意味が載り,それを使った,

茶に受ける(冗談事として応対する),
茶に掛かる(半ばふざけている),
茶に為る(相手のいうことをはぐらかす,愚弄する),
茶に成る(軽んずる,馬鹿を見る),
茶を言う(いい加減なことを言う)

等々という使われ方を載せていて,

ちゃかす(茶化す),

はその流れにある。

茶化すは,

「茶にする」

と同じで,語源は,

「『チャル(戯る・ふざける)+カス(接尾語,他に及ぼす)』です。

とされる。

ちゃらかす,

とも言う(「おちゃらかす」とも言う)。『江戸語大辞典』には,「茶る」という項が載り,

「茶の動詞化」

として,

おどける,ふざける,

の意味が載る。どうも「ちゃり」も「茶る」も,

「茶」

に込められた含意から来ている。あるいは,「ちゃる」に「茶」の字を当て,「茶」自体にそういう含意が込められるようになったのか,この前後はよくわからない。

こう考えると,

「臍で茶を沸かす」

で,「茶」を使った背景は,存外奥が深いようだ。

臍は,『語源辞典』には,

「ヘソは,『hoso heso』で,改まったとき,『hozo』です。」

とあるが,『大言海』は,

「俗に臍をヘソといふは,ホソの転ずる也」

という『倭訓栞』を引き,「ほぞ」をみると,

「清音にホソ。転じてヘソ。沖縄にてフス」

と載る。どうやら,平安時代末期までは「ホソ」と清音だったらしい。『日本語の語源』は,奥舌母音と前舌母音間の母音交替の例として,

オ(o)→エ(e)間の交替,

として,

ほそ→へそ

を挙げている。因みに,「臍」の,字は,

「齊(セイ・サイ)(=斉)の原字は,◇印がが三つ斉然と並んださま。のちに下に板または布の形を添えた。臍は『肉+齊』で,斉然として人体の中央にある部分」

とある。


参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
尚学図書編『故事ことわざの辞典』(小学館)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)

ホームページ;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/index.htm

今日のアイデア;
http://www.d1.dion.ne.jp/~ppnet/idea00.htm
posted by Toshi at 05:10
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