2017年01月18日

滑稽


滑稽は,中国由来と想像がつくが,辞書(『広辞苑』)には,

「『滑』は乱,『稽』は同の意。知力にとみ,弁舌さわやかな人が,巧みに是非を混同して説くこと。また,『稽』の字は酒の器の名。酒が器から流れ出るような弁舌のとどこおりないことともいう」

と注記して,

おもしろおかしく,巧みに言いなす,転じて,歎じて,おどけ,道化,諧謔,
いかにもばかばかしく,おかしいこと,

という意味が載る。いわゆる,

滑稽本,

の滑稽の意味が,今日の意味だから,

笑いの対象となるおもしろいこと,おどけたこと,

という意味でわれわれは受けとっている。語源は,

「中国語で,『滑(なめらか)+稽(はかる)』が語源です。漏斗の様な酒器です。酒がとめどなく流れ出るところから,言葉がつぎつぎと出てくる喩えに使います。つまり,多弁の意となります。後,機知に富んだ多弁,冗談,おかしなしぐさ,おもしろい行動を表すように変化してきました。別説に,滑稽は,混乱混同の意で,巧みに是非を混同させる話で,おもしろおかしくしゃべることだという説もあります。」(『日本語源大辞典』)

とある。『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/ko/kokkei.html

は,

「滑稽には、『滑』は『なめらか』、『稽』は『考える』という意味とする説。 『稽』は酒器の名で 、酒器から流れ出るように弁舌が滑らかであることからとする説。『滑』が『乱』、『稽』が『同』の意味で、是非を混同させ、巧みな弁舌で言いくるめることとする説がある。
 出典は、中国の漢籍『史記』にあり、酒器や泉から流れ出るように弁舌が滑らかであることなどをいった用法などからである。『稽』を酒器の名とする説は上記のようにたとえの一部としてであり、酒器名を語源とするのであれば、泉の名が語源ともいえてしまうため間違いである。『史記』の用法から、『滑』は『滑らか』,『稽』は『考える』とする説が妥当であろう。」

とある。由来は,『史記』に滑稽列伝があることらしいが,『史記』「滑稽列伝」について,

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BB%91%E7%A8%BD%E5%88%97%E4%BC%9D

は,

「滑稽列伝(こっけいれつでん)は、史記の列伝の一つで、為政者を巧みな弁舌で諌めた3人、斉の威王代の淳于髠(じゅんうこん)、楚の荘王代の優孟(ゆうもう)、秦の始皇帝代の優旃(ゆうせん)の伝記を含む。
太史公は、『世俗に流されず、威勢や利得を争わず、上にも下にも拘泥することなく、それで人も害を受けない。よって、その道が広く行き渡った。そのゆえに『滑稽列伝第六十六』を作った』と述べている。」

太史公,つまり,司馬遷は,

「世俗に流されず、威勢や利得を争わず、上にも下にも拘泥することなく、それで人も害を受けない。よって、その道が広く行き渡った。そのゆえに『滑稽列伝第六十六』を作った」

と述べる。そこに,「滑稽」の含意を込めた,と見られなくもない。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%BB%91%E7%A8%BD

は,「滑稽」について,

「滑稽(こっけい)は、中国古代の歴史書『史記』中の列伝の篇名として知られる用語であり、当時は、饒舌なさまを表した。後世、転じて笑いやユーモアと同義語として日本にも伝わり、滑稽本などを生んだ。
一説には、滑稽の語源は、酒器の一種の名であり、その器が止め処無く酒を注ぐ様が、滑稽な所作の、止め処無く言辞を吐く様と相通じるところから、冗長な言説、饒舌なさま、或いは智謀の尽きないさまを、滑稽と称するようになった、という(北魏の崔浩による『史記』等の注釈に見える)。
古代の『楚辞』、揚雄の『法言』や、『史記』に立伝される人物の滑稽は、全て弁舌鮮やかなさまを表しており、笑いの要素は含まれていない。但し、滑稽として取り上げられた人物の中には、優孟(ゆうもう)や優旃(ゆうせん)のような俳優が含まれていた。その、おどけた、ウィットに富んだ言動が、笑いやユーモアと通じるため、後世、笑いやユーモアに富んださまを、滑稽と表現するように転じたものと考えられている。」

と,

滔々と滑らかな弁舌,
酒の注がれる喩え,

と,やはり二説を語源説として,取っている。『世界大百科事典 第2版』は,「滑稽」について,

「古代中国,戦国から秦・漢時代にかけての宮廷には,機転の利いたユーモアと迫真の演技力をまじえながら,流れるように滑脱な弁舌をもって,君主の気晴しの相手となり,また風刺によって君主をいさめる人々が仕えていた。滑稽の原義はそのような人々,またはそのような能力を意味する。幇間(たいこもち),道化,あるいは言葉の原義での〈俳優〉の一種であるが,そのなかには漢の武帝に仕えて〈滑稽の雄〉といわれた東方朔のように教養ゆたかな文士もいた。」

として,やはり弁舌の巧みさについて言及している。『大言海』は,『史記』滑稽伝評林から,

「姚察云,滑稽,猶俳諧也,滑,讀如字,便也,稽,音計也,以言俳語滑便巧利,其知計疾出」

を,さらに,

「『史記』滑稽伝,淳子髠から,『滑稽多瓣,數使諸侯,未嘗屈辱』同評林,欄外『光縉曰,滑稽,言口給便利,應答若流,不第以恢諧為滑稽』」
 
を引く(『評林』は,明の董份(とうひん)の評)。しかし,『史記』樗里子(ちょりし)・甘茂(かんも)列伝に,樗里子を,

滑稽多智,

と,司馬遷は記す。この「滑稽」は,明らかに,今日の「滑稽」の意味ではない。訳注に,

「原文『滑稽多智』。滑稽の語義には二つの解釈がある。一つは,口が達者で敏捷であり,白を黒,黒を城と言いくるめ,物のけじめをわからなくさせること。別の一解では,酒だるから酒が流れ出るように,とめどなく口のまわること。形容詞としてどちらにも用いられるが,ここは第一の解に従うべきであろう。さらに第三に,人をおもしろがらせる言葉を意味する。われわれが使うコッケイはこの転義による。滑の音はカツ(クワツ)がふつうであるが,特にコツとよむのは,かき乱す,人をまどわせる意味である。」

とある。戦国時代,諸侯を説いてまわった(游泳した)遊説家の弁舌を指す。対秦の合従を説いた,蘇秦に対して,それをひっくり返して,秦との連衡を説いた張儀などは,代表である。因みに,合従連衡とは,戦国時代の七大強国(七雄)(燕・斉・楚・秦・韓・魏・趙)のうち

秦を除いた六国の関係を縦(縦)といい,その連合を合従,

といい,

(西方にある)秦と(当方の)他の六国のひとつまたは二つ以上が結ぶことを連衡(「衡」は,横,東西をいう),

という。つまり,

「秦に対抗して合従する国に対し,秦と結んで隣国を攻める利を説いて、合従から離脱させたのが連衡」

ということになる。つまり,

「連衡の論者は往々にして秦の息のかかったものであり、六国の間を対立させ、特定国と結んで他国を攻撃し、あるいは結んだ国から同盟の代償に土地や城を供出させることを目指した。その代表的な論客は張儀である。」

となる。こうした遊説家の一人,公孫竜(こうそんりょう)は,

堅白異同(同異とも)の詭弁の人,

と称された(『史記』孟子荀卿列伝に,「趙に亦公孫竜有り,堅白同異の弁を為す」とある)。

こう見ると,「滑稽」は,弁舌巧みに,諸侯に利を説いた,遊説家の弁舌を指している。とすると,この意味は,諸侯が,本来の意味で,

をかし,

と受け止めたところにあったに違いない。「をかし」は,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/418220586.html

で触れたように,

知的感動がある,
趣きがある,

という意味になる。それが転じて,

笑いを誘われるようなさま,

の意になったのと似ている。念のため漢字を調べると,「滑」の字は,

「骨の月を除いた部分は,骨の端が関節の穴にはまりこんで,骨が自在に動くさま。骨はそれに肉づきを加え,自在に動く関節骨を示す。滑は『水+音符骨』で,水気があって滑らかに自由に滑ること。」

「稽」の字は,

「もと『禾(作物)+音符耆(キ 長くたくわえる)』で,久しく留めおいた収穫物。のち計(あわせてはかる)に当てて,次々と考えあわせること。」

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%88%E5%BE%93%E9%80%A3%E8%A1%A1
小川環樹・今鷹真・福島吉彦訳『史記列伝』(岩波文庫)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm
posted by Toshi at 05:19
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