2017年04月29日

いけず


「いけず」は,辞書によっては,

行けず,

とあてる。『広辞苑』には,

(『行けず』の意から)
強情なこと,意地の悪いこと,そういう人,いかず,
わるもの,ならずもの,

の意が載る。「いけ」の項,

http://ppnetwork.seesaa.net/article/449373160.html

で触れたように,「いけすかない」の「いけ」とは別系統で,『日本語源広辞典』には,

「『行かず(いかない)』の音韻変化で,イケズとなった語です。性質や行動などのよくない者,人格のねじけた者,意地悪な人などの意で,関西地方で多く使われる」

とある。いわば,

根性悪,意地悪,

の意だが,『江戸語大辞典』には,

「行かずと同義」

とあり,『大言海』を見ると,「いけず」は,「いけずもの」を見よとあり,「いけずもの」には,

「不成者(いけずもの)の義。いける(得成)の條を見よ。成らずもの同義」

とあり,

わるもの,ならずもの,略していけず(京都),

と意味が載る。「いけず(不成)」の逆の意であるらしい「いける(得成)」の項には,

「成(い)き得るの約,成(い)くの條を見よ(書き得る,書ける)。」

として,

成し得る,行われる,できる,

の意が載る。「い(成)く」の項には,

行くの語意より移る。成(い)き得るの意に,イケルと云ふ」

とあり,

おこなわる,できる,

という意である。つまり,ただ,

成し得る(つまり,できる),

という状態表現の意の「いける(得成)」が,逆の,

不成(いけず),

になっただけの状態表現が,そのこと自体を評価する価値表現へと転じて,

できない→意地悪→できの悪い者→ならずもの,

といった価値を表す言葉に転じ,それを他者に転嫁した客体表現へとシフトしたと見ることができる。因みに,「ならずもの」とは,

「どうもかうもならぬものの意」(『大言海』),
「どうもこうもナラズのナラズ+者」(『日本語源広辞典』),

と,「いけず」の果ての「どうにもならない困り者」ということになる。『日本語源大辞典』には,

近世はイカズとも言い,尋常には行かぬの意(上方語源辞典),

の意が載り,どうも,

いけ(行)ず,

の原意に見える。つまり,

尋常には行かぬ→できない→意地悪→できの悪い者→ならずもの,

と転じていったのではあるまいか。しかし,「いけず」には,悪罵の意味だけとは思えない含意がある。

http://www.yuraimemo.com/1335/

には,

「『いけずぅ~』 クレヨンしんちゃんの名文句です。でもよくよく考えて見ると、軽く流してたこの「いけず」が雰囲気だけでその本当の意味を理解していない自分を発見しました。
しんちゃんがこの言葉を発するシチュエーションからすれば、『いじわる~』とか女性がおねだりする状況を模しているように見えます。…しんちゃんの言い方なのかなんとなく京都の匂いがするので、綺麗な言葉のように見えますがその意味は、強情なことや意地の悪いこと。また、そういう人のこと。より悪い意味に発展すると、わるものとかならずものといった意味もあります。更に好ましくないことや不良じみたいたずらのこと、また多少使い方は違いますが贋金(にせがね)など通用しない貨幣の意味もあります。
関西の人間がよく使う『いけず』は、ほぼ100%強情なことや意地悪なことに対してで嫌みな感じではなく、ちょっと親しみを込めた言い回しで使われるようです。特に、関西の女性が男性に対して言うのであれば、『あなたっていけずね』=『あなたって、意地悪ね(ハート)』といった感じの使い方となります。
しんちゃんも、もちろんこれと同様の使い方で間違いないでしょう。」

このニュアンは,

尋常には行かぬ→いけず→できない→やってくれない→意地悪(→できの悪い者→ならずもの),

という転化の流れをうかがわせる。さらに,上記は,「いけず」の由来を,

「大阪ことば事典では、『オールド・ミスなどの小姑根性のひねくれた気質が人に嫌われて、あれでは嫁にも行けない。行けず者だ、が行けずだといったものではないだろうか。』と書いてある」

と付言する。『江戸語大辞典』の「いけない」「いかぬ」を見ると,

「成るの意の『行く』の打ち消し」

とあり,「行かない」には,

意の如くならぬ意から,金に窮している,
よくない,
野暮な,無粋な,

「行かぬ」には,

思うようにならぬ,効力がない,成功しない,
よくない,
いただけない,感心せぬ,
無粋な,野暮な,

と意味の変化が載る。もともと「いけず」には,

無粋,野暮,

という価値表現が含まれていた。それを,他人に転嫁すれば,

ならずもの,

とつながる。しかし,「いけず」には,悪罵よりは,ちょっと,

すねた,

姿勢が,言っている側にあるのではあるまいか。

参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)


ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm

今日のアイデア;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/idea00.htm

posted by Toshi at 04:57
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