2018年03月29日

ツバメ


「ツバメ」は,

燕,

と当てる。

つばくら,
つばくろ,
つばくらめ,

の異称がある。「つはくらめ」が「ツバメ」の古称とある(『広辞苑』)。「燕」(エン)の字は,象形文字で,

「つばめを描いたもので,その下部は二つにわかれた尾の形であり,火ではない」

とある(『漢字源』)。

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『岩波古語辞典』の「つばくらめ」の項には,

「メは,カモメ・スズメ・ヤマガラメなど,鳥を意味する接尾語」

とある。『大言海』には,「つばめ」は,

「ツバクラメの略」

とあり,やはり,「メ」は,「ヤマカラメ,ヒカラメと同趣」

とあり,「ツバクラ」も「ツバクラメの略」とある。「ツバクラメ」の項では,

燕,
玄鳥,
乙鳥,

と当て,

「ツバクラは鳴く聲,メは群れの約と云ふ。或は,土喰黒女(つちばみくろめ),翅(つば)黒女,光澤(つや)黒女の略轉など云ふはいかがか」

とある。そして,

「ツバビラコ,ツバビラク,略してツバクラ,ツバクロ,ツバメ」

とする。そして,

『倭名抄』「燕,豆波久良米」
『本草和名』「燕,玄鳥,都波久良米」
『字鏡』「乙鳥,豆波比良古」

を引く。

http://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000067714

の言う,

「『日本語語源大辞典』『語源大事典』によると、土食み(つちくみ)の意味からか、ツバメの古名はツバクラメ。ツバクラになり、ツバメとなった。ツバクラメは土喰黒女(ツバクラメ)となるが、この呼び名は光沢のある黒い鳥を意味するともいわれている。
『ツバ』『クラ』『メ』の三語よりなっている。
「ツバ」・・・光沢のあること。
「クラ」…黒
「メ」・・・ススメやカモメなど群れる鳥を指す。
姿の黒い照り輝くところからの命名。また、「土」「喰」「黒」・・・ルバメクロ(メ)とも解するという。)」

の,「土喰黒女(ツバクラメ)」を『大言海』は否定していることになる。

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「ツバクラは鳴く聲」というのは,『日本語源広辞典』のいう,

「チュバ(鳴声)+メ(小鳥の接尾語)」

と同趣だろう。

http://www.cec-web.co.jp/column/bird/bird57.html

も,

「ツバメの語源は、ツバクラメで、これが短くなったものとされています。時代的には、すでに奈良時代にはツバメとツバクラメが併用され、室町時代になってツバメが主流となったようです。もともとのツバクラメとは、ツバが鳴き声を表し、クラが小鳥の総称であり、メは群れを示す接尾語という解釈が今日代表的な見解のようです(「鳥の名前」東京書籍発行、「鳥名の由来辞典」柏書房)。」

とあるのも同じである。

http://www.nihonjiten.com/data/45823.html

は,

「古名『ツバクラメ』→『ツバクラ』→『ツバメ』と変化したとされる。古名『ツバクラメ』の語源は、『ツバ+クラ+メ』の説で、『ツバ』は光沢の意とする説、鳴声とする説、『クラ』は黒の意とする説、小鳥(カラ)の総称とする説、『メ』は群れる鳥を表す接尾語とする説がある。他に『ツチバミクロメ(土喰黒女)』、『ツフハクロメ(頬羽黒群)』、『ツハサクルフレム(翼狂群)』、『ツバサクリカヘリムレ(翼繰返群)』『ツバクロメ(翅黒女)』『ツヤクロメ(光沢黒女)』などの意とする説がある。 別に、古名『ツバクロ(メ)』→『ツバメ』と変化した説もあり、『ツバクロ』は嘴で土をくわえて巣をつくることから『土喰黒(ツチバミクロ)』の略とする説がある。」

と諸説を整理しているが,

ツバクラメ→ツバクラ→ツバメ,

ツバクロ(メ)→ツバメ,

の略轉説を整理しているが,「ツバクラメ」が古称なら,

ツバクラメ→ツバクロ(メ)→ツバクラ→ツバメ,

なのかもしれない。『日本語源大辞典』は,「つばくらめ」と「つばめ」を別に項を立てている。「ツバクラメ」の語源としては,

ツバクラは鳴声から,メはムレ(群)の約(箋注和名抄・音幻論=幸田露伴),
ツチバミクロメ(土喰黒女)・ツバクロメ(翅黒女)・ツヤクロメ(光沢黒女)の略轉(『大言海』が疑問視した),
ツバは鳴声から。クラはイタクラのクラと同じで小鳥の総称(野鳥雑記=柳田國男),
ツバは光沢のあるさまをいう語。クラは黒の義。メは鳥名につける語(東雅),
ツバクラは翅黒の義か,メはムレ(群)の義(上方語源辞典=前田勇),
ツチ(土)ハミクラフの略(関秘録),
ツチ(土)クラヒの義という(物類称呼),
ツバサクリカヘリムレ(翼繰返群)の義(日本語原学=林甕臣),
ツバサクルフムレ(翼狂群)の義か(名言通),
ツフハクロメ(頬羽黒群)の義(言元梯),

等々。いささか苦しいものもあるが,「クラ」は黒の意とする説でいいとして,

「メ」を鳥の総『ツバ』は光沢の意とする説、鳴声とする説、
「ツバ」は光沢の意とする説、鳴声とする説、

にわかれている。「ツバメ」の項で,

「①語形としては,『色葉字類抄』にツハメ・ツハクロメ・の語形が見られる。ツバメ・ツバクラメのメは,カモメ・スズメ・コガラメなどの,鳥類に共通する接尾語か。②鎌倉・室町期になるとツバメが勢力を増し,『節用集』ではツバメクラを圧倒してくる。江戸期にはツバクラメは古語となり,ツバメ・ツバクラ・ツバクロが主流となる。」

と述べている。「メ」について,群れか鳥の総称か,というのは,「メ」の意味が分からなくなったから,そう言っているだけなのかもしれない。『日本語の語源』は,音韻変化説をとり,こう述べている。

「『黒む』という動詞は『黒くなる。黒みを帯びる』という意味である。…春来て秋帰る燕は人家に巣くってかくべつ馴染みの深い小鳥であるが,大昔の人はこれをツバサクロム(翼黒む)鳥と呼んだ。『サ』を落としたツバクロムは『ロ』の母音交替[oa],『ム』の母音交替[ue]の結果,ツバクラメに転音した。(中略)さらに語尾を落としてツバクラ・ツバクロになった。(中略)ツバクラメの省略形がツバメである。(中略)筑後久留米(浜荻)・広島・愛媛・佐賀・長崎・香川県では,最古のツバサクロム鳥の省略語として,燕のことをツバサと呼んでいる。」

これだと,スズメ・カモメの「メ」はどう説明するのか,と思うが,「スズメ」については,

「『がやがや騒ぐ』ことをサザメクという。(中略)サザメキ鳥は語幹のサザメがスズメ(雀)になった。丹波国何鹿(いかるが)郡アササキ(吾雀)郷の地に式内社のアススキ(阿須須岐)神社があるのは,ササ・ススの転音を示唆している。」

とし,「カモメ」についても,

「鷗は夏,カムチャッカ・シベリヤ・カナダなどの海岸に繁殖し,冬は日本に現れて全国の海上に群棲している。翼が長くて飛翔力があるので,大昔の人はナガバネ(長羽)と呼んでいた。語頭の『ナ』を落としたガバネは,ガバネ・カマネに転化するとともに,『マ』の子音の順行同化の作用で語尾の『ネ』が子音交替[nm]をとげた結果,カマメ(鴎。上代語)になった。〈うなばらにカマメたちたつ〉(万葉)。
カマメ(鷗)はさらにカモメ(鷗)になった。津軽地方では,カモ[k(am)o]が縮約されてコメ・ゴメになった。」

と,一貫している。何でも不明だと,接尾語にするというのは,いかがかと思うので,聞くに値する。

因みに,「若いツバメ」は,『語源由来辞典』

http://gogen-allguide.com/wa/wakaitsubame.html


によると,

「明治時代の婦人運動・女性解放運動の先駆者 平塚雷鳥と、年下の青年画家 奥村博史 の恋に由来する。平塚が年下の男と恋に落ちたことで、平塚を慕う人々の間で大騒ぎ となり、奥村は身を引くことにした。 その時、奥村から平塚に宛てた手紙の中で、『若い 燕は池の平和のために飛び去っていく』と書いたことから流行語となり、女性から見て年下の愛人をいうようになった。」

とあり,『日本語俗語辞典』

http://zokugo-dict.com/44wa/wakaitubame.htm

「若いツバメとは平塚雷鳥という婦人運動家と年下の奥村博史という画家との恋愛から生まれた『年上の女性の愛人である若い男性』という意味の言葉である。平塚はこの5歳年下の彼氏・奥村のことを『若いツバメ』や『弟』と呼んでいた。二人の関係が公になるにつれ、女性解放を謳う平塚の運動に参加していた者の間でこれが騒ぎとなり、奥村が身を引く決心をする。その時、奥村が平塚に宛てた手紙の『若いつばめは池の平和のために飛び去っていく』という文面から若いツバメは上記の意味で流行語となった。余談だが二人は最終的に結婚している。」

とある。「燕」を当てる字には,陰暦八月の「燕去り月」,燕合わせ(「つばめる」から来た当て字。燕算用も同じ),燕口,燕銛,燕返し等々数々ある。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
藤堂明保他編『漢字源』(学習研究社)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)


ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:06
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