2018年09月30日
まるで
「まるで」は,
丸で,
と当てる。「丸で夢のよう」という使い方をする,
ちょうど,あたかも,さながら,
という意味と,下に否定語を伴って,「丸で駄目だ」という使い方をする,
全く,まるっきり,全然,
という意味とがある。
「丸で」と当てるように,当然「まる」と関わることが推測される。『日本語源広辞典』は,
「マル(丸・円)+で」
とし,
「すべての点から見て,欠かさないで,そのままの意」
とする。当然,
丸っきり,
も同じで,
「マル(丸・全部)+キリ(限り)」
で,
すっかり,すべて,
の意となる。このことは,「まる」の意に,
完全なこと,
丸のまま,
の意があることからも納得がいく。「まるまる」で,
すべて,
すっかり,
という意で使うし,「まろ(丸)げ」「丸める」
全てひとまとめにする,
という意味になることにもつながる。それを否定に使って,
まるっきり(ダメ),
というのも意味のつながりとして理解できる。しかし,
まるで~みたい,
と喩えるのに使うのはどこから来たのか。面白いのは,『江戸語大辞典』の「まる」の,
芝居者用語,土間桟敷の借り切り,
丸札の略,
意味に続いて,「まるで」の項があり,
本物そっくりに,実物同然に(「丸でやる気か」天保五年春色辰巳園),
あたかも,さながら(天保八年「宛然(さながら)湯でたての蛸のやだね」娘太平記),
残らず(天保八年「さっぱりまるでむきだして言って聞かせてくれなねへ」春告鳥),
全く(文政十年「全然(まるで)干上がって居る」藪の鶯),
の意味が載る。「まるに」という言葉もあり,
まるっきり,全然,
という意味が載る。「宛然」を「まるで」と訓ませたり,「全然」を「まるで」と訓ませたり,とルビから始まったもののようだ。どうやら,「全然」が今日否定を伴わない言葉として使われるように,「まるで」は,この時期意味を転じたらしい。「まるで」はまだ認知されていなかったのか,『岩波古語辞典』『大言海』には,「まるで」は載らない。
『語源由来辞典』(http://gogen-allguide.com/ma/marude.html)は,「丸で(まるで)」について,
「まるでは漢字で『丸で』と書くように、円を表す『丸』に由来する。丸は、欠けたところが 無いことから、『完全』『全部』の意味を表すようになった。江戸中期から、完全に似て いるさまを表した『まるで』の形があらわれ、『あたかも』の意味が生じた。『まるで違う』『まるで駄目だ』といった、下に否定的な意味の語を伴い、まさしくその状態である事を表す『まるで』は明治時代にはいってからである。」
とある。この変化の機微はわからない。
参考文献;
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
posted by Toshi at 05:03
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