「すべた」は,
スベタ,
と表記されることが多い。
「espada ポルトガル・スペインの転。剣の意。もとカルタ用語」
とあり(『広辞苑第5版』),
花札で,点数にならないつまらない札。素札(すふだ),
の意で,この「素札(すふだ)」が転じて,
スブタ,
と,
女性を罵る言葉,
になったと見ることができる。江戸時代には既に使われていたらしく,『江戸語大辞典』の「すべた」の項に,よりい
「めくりカルタで,数にならぬ札。四十八枚中,二十四枚ある。素札」
とあり,
「詰まらない男また女を罵って言う語」
とある。女性に限らなかったらしく,つまらない客の意で,
すべた客,
つまらぬ男の意で,
すべた野郎,
という言葉もあった(『江戸語大辞典』)。『大言海』は,カルタの「スベタ」と別に「スベタ」の項を立て,カルタの項では,
「鋤の西班牙語,espada(英語spqde)の訛にて,其の象を牌面に記したるものより云へるか」
とし,
「西洋骨牌(カルタ)に云ふ語。一枚が,一にならでは値せぬ平凡(へぼ)なる牌の称」
とし,もうひとつの「すべた」は,
素女,
と当て,
「安永七八年頃より,美(よ)からぬ女を,ソベタと云ふは,(スベタの)骨牌よりでたる詞とぞ(醜を,ヘチャとも云ふ)」
とし,別に
「伊豆にて。色情深き女(男の,スケベヱに対す)」
とある。そういう含意かと,よく分かる。『日本語源大辞典』には,
「特に外形面の非難が強く,行動や精神面の軽はずみへの非難を示す『蓮葉』と対照的に使用された」
とあり,これだとただ外面の良し悪しを言っていることになる。しかし『江戸語大辞典』の,男性に使った含意は,
つまらない,
取るに足りない,
という含意であるから,初めは,そういう含意だったのが,外面の,
良し悪し,
に転じたものに思われる。
エスパーダ→素札(すふだ)→すべた,
の転は,美醜を指してはいない。
役に立たない,
つまらない,
の意である。
なお,「めくりカルタ」については,
「『めくり』は明和期(1764-1772)の中頃に登場し、安永、天明(1781-1789)のいわゆる田沼時代に大ブームを巻き起こしました。この頃の黄表紙、洒落本、噺本等の文芸作品にも数多く登場し」
たとあり,こう説明されています(http://www.geocities.jp/sudare103443/room/mein/mein-01.html)。
「『めくり』は三人で競技しますので『胴三』は無く『親』『胴二』『大引』のみとなります。カルタ一組四十八枚(時に「鬼札おにふだ」と呼ばれる一枚を加える事も有り)を使用し、各人に手札として七枚づつ配り、場札として六枚を表向けに晒し、残りは山札として裏向きに積んでおきます。競技は『親』から開始します。手札の中に場札と同じ数(ランク)の札が有ればそれを出し、場札と合わせて取る事が出来ます。同じ数が無い場合は任意の一枚を場に表向けに捨て、以後この札も場札となります。次に山札の一番上の札をめくり、場に同じ数の札が有れば二枚合わせて取る事が出来ますが、無ければその札も場札に加えられます。続いて『胴二』『大引』の順に同じ手順を繰り返し、七順で一勝負(番個ばんこと呼ぶ)が終了します。」
とある。
聖杯(骨扶/乞浮)、
刀剣(伊須/伊寸)、
貨幣(於留/遠々留)、
棍棒(巴宇),
の4スート、1から9の数札と,
女王(十)、
騎士(馬/牟末)、
国王(切/岐利),
の絵札からなり,
合計48枚,
ということらしい(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E6%AD%A3%E3%81%8B%E3%82%8B%E3%81%9F)。
(天正カルタ。聖杯、刀剣、貨幣、棍棒の4スート、1から9の数札と女王、騎士、国王の絵札からなり、合計48枚。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A9%E6%AD%A3%E3%81%8B%E3%82%8B%E3%81%9Fより)
なお,方言ではこの「スベタ」を,
ずべっこ(新潟県)
ずべろく(新潟県西頚城郡)
ずべたら(栃木県、埼玉県秩父郡、東京都八王子市、山梨県南巨摩郡、静岡県榛原郡)
ずべたらもの(群馬県勢多郡=道楽者の意)
ずべくら(熊本県下益城郡)
ずべとこ(富山県東礪波郡)
ずべたこ(兵庫県西宮市)
等々というとある(http://www.ytv.co.jp/announce/kotoba/back/0701-0800/0761.html)。
この「すべた」が,
すべた→すべ→ズベ公,
と,「ズベ公」という言葉につながるらしい。
参考文献;
http://www.geocities.jp/sudare103443/room/mein/mein-01.html
大槻文彦『大言海』(冨山房)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
前田勇編『江戸語大辞典 新装版』(講談社)
ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95