2019年02月24日

こうもり


「こうもり」は,

蝙蝠,

とあてる。「蝙蝠」(ヘンプク)は,中国語そのものである。「蝠」(ふく)の字が「福」に通じるので中国では縁起が良いものとされている(『漢字源』)とか。

「古代中国では漢字で『蝙hen、蝠fuku、蝙蝠hen-puku、服翼fuku-yoku(以上の4語は『説文解字』A.D.100年許慎編纂)、伏翼fuku-yoku(『神農本草経』漢時代(B.C206-A.D220)編者不明)と書き、『蝙蝠』は唐代の長安地方の発音である『漢音』で、『ヘンプク』と発音した。その字義は『蝙』が『(扁)は平たい、(虫)は動物』、『蝠』が『へばり付く動物』の義で、『飛ぶ姿が平たく見え、物にへばりつく生態から』の当て字。『伏翼』は『昼伏し(休憩し)翼あるものの義』である。蝙蝠は古代中国で本草(薬物)の一つとして用いられており、現存する中国最古の薬物書である『神農本草経』に『伏翼』としてその名がある。『時珍(1518-1593)』編纂の『本草綱目(1596年刊)』には、『伏翼は形が鼠に似て灰黒色だ。薄い肉翅niku-shiがあり、四足、及び尾を連合して一hitotsuのようになっている。夏は出て冬は蟄し、日中は伏して夜間に飛び、蚊ka、蚋buyoを食物とし』とある。薬効として、『 目瞑癢痛ku-mei-you-tsuu』目を明にし、夜間物を視るに精光あらしめる。久しく服すれば人をして熹樂ki-rakuし、媚好bi-kouし、憂無urei-naからしめるとある。』

とか(http://www.yasei.com/koumori.html)。中国では蝙蝠も食した。

和語「こうもり」は,どうやら,古形は,

「かはほり(かはぼり、加波保利)」,

らしいが,

カハホリ(カハボリ)→カワボリ→カワブリ→カワモリ→カウモリ→コーモリ→コウモリ,

と変化してきたものらしい(『日本語源大辞典』)。こうある。

「古形のカハホリから現在のコウモリに至るまでの語形がさまざまに変化した。中古の文献では『カハホリ』の例が多いが,実際の発音はカハボリであった可能性が高い。その後,音韻の変化により,中古から中世にかけて,ハ行転呼によるカワボリ,オ段とウ段の交替によるカワブリ,バ行からマ行への変化によるカワモリ,カワ→カウの変化によるカウボリ,カウブリ,カウモリなどの変化が生じ,語形が揺れた。全体的には,中世にはカハホリよりもカウモリが多く行われるようになり,カワモリが普通語,カハホリは文章語という使い分けも行われた。中世から近世にかけては,カウモリからコーモリへと発音が変化し,近世には完全にコーモリとなったが,仮名遣いの規範意識によって,表記は『カウモリ』のものがほとんどである。近代に入って,カハホリは使われなくなり,コウモリのみが残って現在に至った。ただし,方言では様々な形がのこっている」

と。『日本語の語源』は,音韻変化については少し異説である。

「コウモリ(蝙蝠)の別名を畿内ではカクイドリ(蚊食鳥)といった。平安時代にはカワホリといった。(中略)蚊食鳥の名が示すとおり,コウモリの古名はカハフリ(蚊屠り)カハホリ・カワホリ・カワボリ・カワモリ・コウモリを経てコウモリ(蝙蝠)となった」

つまり,

カハフリ→カハホリ→カワホリ→カワボリ→カワモリ→コウモリ,

と転じたと,原初は,「蚊食鳥」の別名,

蚊屠り,

とする。

「『みなごろしにする』という意のホフル(屠る)は,古くは,ハフル(和名抄)」

というところからとする。と考えると,『日本語源広辞典』の,

「川+守り」

は,音韻変化の途中の「カワモリ」からの解釈に過ぎず,

「川辺の洞窟などにいて,川を守るものとみた」

というのは牽強付会となる。『岩波古語辞典』の「かはぼり」を,

川守の意,

も,『大言海』の「かはほり」を,

「川守(かはもり)の轉(守 (まぼ) る,まもる。『扇をかはもり』(壒囊抄))。井守(ゐもり),屋守(守宮 やもり)の例なり。河原の石間,橋下などに棲めば名とす。静岡にてカウブリという」

も,やはり音韻からみて,妥当とはいえない。

「平安時代はカハホリ(加波保利)と呼んでいたらしい。俳句の世界では過去形ではないが。
 かはほりや むかひの女房 こちを見る 蕪村
畿内ではカハボリと濁音化させたりしたようだ。それを考えると、語源をカワモリ(川守)と考えるのは一寸無理がありそう。イモリ(井守)、ヤモリ(家守)があるから、川守にしたくなる気持ちはわかるが。」

という(http://www.randdmanagement.com/c_japan/ja_108.htm)とおりである。

800px-Bats_in_Chinese_art_(Featured).JPG

(中国の伝統的な装飾におけるコウモリの図案 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%82%A6%E3%83%A2%E3%83%AAより)


「日本では蚊食鳥(カクイドリ)とも呼ばれ、かわほりの呼称とともに夏の季語である。蚊を食すため、その排泄物には難消化物の蚊の目玉が多く含まれており、それを使った料理が中国に存在するとされる。
『強者がいない場所でのみ幅を利かせる弱者』の意で、『鳥無き里の蝙蝠』という諺がある。また、織田信長はこれをもじって、四国を統一した土佐の大名、長宗我部元親を『鳥無き島の蝙蝠』と呼んだ。この『鳥無き島の蝙蝠』のフレーズは、古くは『未木和歌抄』巻第二十七に平安末期の歌人和泉式部の歌に『人も無く 鳥も無からん 島にては このカハホリ(蝙蝠)も 君をたづねん』とあり、鎌倉期の『沙石集』巻六にも『鳥無き島のカハホリにて』とあることから、少なくとも12世紀には記されていたものとわかる。」

とあり(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%82%A6%E3%83%A2%E3%83%AA),

蚊屠り,

説(『日本語の語源』)が注目され,似たものに,

蚊を好むところから,カ(蚊)をホリ(欲)する義(日本釈名),
カモリ(蚊守)の義(柴門和語類集),
カ(蚊)ヲ-ホリの轉(和句解・滑稽雑誌所引和訓義解),
カハメリ(蚊食)の義(言元梯),

等々があるし,

「和語としては、1713年頃に寺島良安が編んだ江戸時代の百科事典ともいえる『和漢三才図会』に、<和名、加波保利(カハホリ)、今、加宇毛利(カウモリ)と云>とあり、当時既に方言は別として、二つの発音が流通していたといえよう。『コウモリ』の語源は岸田久吉氏(1924年)によると、『カハホリ』は『蚊(カ)、屠(ホフリ)』で、これが『カハホリ』と転じ、さらに転じて、『コウモリ』になったと、新井白石著(1719年)の「東雅」にあるという。」

も(http://www.yasei.com/koumori.html),

蚊屠り,

説だが(『東雅』の説はいつも当てにならないが),『語源由来辞典』は,

「『カハボリ』の『カハ』が『皮』のアクセントと一致することから,『蚊』に由来する説も難しい」

とし(http://gogen-allguide.com/ko/koumori.html),

「『皮(かは)』と『ほり』からなり,『ほり』は『張り』か『振り』が転じたもので,翼としている薄い皮膜に由来するものと考えられる」

と,自説を立てる。「皮」説は,

カハハリ(皮張)の轉(名語記・名言通),
カハハトリ(皮羽鳥)の義(和訓栞・日本語原学=林甕臣),

等々ある。しかし音韻ではなく,アクセントというのでは,「蚊食鳥」と呼び慣わしてきた流れを否定する根拠としては弱くはないだろうか。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
田井信之『日本語の語源』(角川書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:10
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