2019年07月17日

みずみずしい


「みずみずしい」は,

瑞々しい,
水々しい,

と当てる。「瑞」の字の項の使い方は,日本だけである。

「瑞」(漢音スイ,呉音ズイ)は,

「会意兼形声。耑は,端正の端(形がととのう)の原字。瑞はそれを音符とし,玉を加えた字で,刀違いの整った玉」

とある(漢字源)。別に,

「会意兼形声文字です(王(玉)+耑)。『3つの美しいたまを縦にひもで通した』象形(『玉』の意味)と『水分を得て植物が根をはり発芽した』象形(『物事のはじめ』の意味)から『事物の発生に先立って神の意志をを見る為の玉』の意味を表し、そこから、『めでたいしるし』を意味する『瑞』という漢字が成り立ちました」

ともある(https://okjiten.jp/kanji2597.html)。本来,典瑞(しるしの玉をつかさどる官のしるし),符瑞(しるしとする玉)というように,「しるし」「めでたいしるし」の意で,そこから,瑞兆,瑞雲等々,「甘露や美しい雲など,天の神が善政をほめてくだすしるし,めでたい兆候」の意で使われるので,

瑞穂,

というように,

美しく生気があって瑞々しい,

意で使うのは,瑞の原意から外れた我が国だけの使い方である。当然,

みずみずしい,

に当てるのは,本来の漢字の意味から逸れている。「水」(スイ)は,

「象形。水の流れの姿を描いたもの」

である(漢字源)。水の意しかない。

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(水・甲骨文字 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B4%E9%83%A8より)

「みずみずしい」は,

光沢があって,生気に満ちている,
新鮮で美しい,

の意であるから,それに当てた,「水」も「瑞」も漢字の意からは少しずれる。

「みずみずしい」の語源ははっきりしないが,「みず」が旧仮名遣いでは,

みづ,

であるように,

みづみづしい,

と表記していた。岩波古語辞典には,

みづみづ,

が載り,

瑞々,

と当て,

艶がって若々しいさま,

という意が載る。「みずみずしい」とほぼ重なる。日本語源広辞典は,

水+水+しい(形容詞の語尾),

とするが,「みずみずしい」の持つ意味からは,むしろ,

みづみづ,

から来ていると考えていいように思う。

ミヅミヅ(瑞々)しの義。瑞々は褒美の称,シは助辞(万葉集類林・幽遠随筆),
ミヅは水の義。美しい匂いが水の潤うようであるところから(国語本義),

とする解釈は,明らかに,

水々しい,
瑞々しい,

と,漢字を当てて以後の解釈ではないか。むしろ,古くは,「みづ」は,

水草(みくさ),
垂水(たるみ),
水漬(みづ)く,
水(み)な門(と),
水(み)際,
水(み)岬,
水(み)鴨,
水(み)菰,
港(みなと),
汀(みぎわ),

等々と,

み,

であった(http://ppnetwork.seesaa.net/article/448460590.html)。「海」すら,

ウ(大)+ミ(水),

とされる。「みづ」は,

み(水)+つ,

なのではあるまいか。「つ」は,

市とか存在を示す助詞,

天つ神,
奥つ櫂,

等の「つ」なのではあるまいか。

江戸語大辞典に,「みずみず」が載り,

若々しく美しいさま,

の意とするが,

「幼児(がき)あってもみづみづと年より若いが一つの徳」(三題噺高座新作・文久三年),

という用例が新しい。岩波古語辞典の「みづみづ」も,

「(節を)みづみづと言ひなせば,幽玄に面白く聞ゆる也」(五音三曲集),
「みづみづしたる女房」(浄瑠璃・甲賀三郎),

古語辞典(三省堂)も,

「みづみづとした若い者,義理にせまって死ぬるとおりは」(浄瑠璃・女舞衣),

と,ほとんど新しい。最も古いと思われるのは,能楽に関わる用例で,

みづみづと言ひなせば,幽玄に面白く聞ゆる,

で本来は,こういう使い方であったのではないか。それが,「瑞々しい」「水々しい」という漢字を当てたことで意味が,

若々しい,

という意へとシフトしたのではないか,と推測される。

参考文献;
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
金田一京助・春彦監修『古語辞典』(三省堂)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 03:46
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