2020年02月26日

どんぶり


「どんぶり」を引くと、擬音語の、

大きくて重みのある物が、水中に落ちる音、

の意で、

どぶん、
どぼん、

と同義の意味が載る(広辞苑)。もっとも、「どぶん」は、

水中に飛び散る感じ、

で、「どぼん」は、

水中に深く潜り込む感じ、

と微妙に違うが(擬音語・擬態語辞典)。さらに、「どんぶり」は、

丼、

と当てて、三つの意味が載る。一つは、

どんぶり鉢、

の意で、

深い厚手の陶製の鉢、

の意で、二つ目の意味は、

更紗、緞子などでつくった、金などを入れる大きな袋、

の意。

懐中用の大きな袋。江戸時代、若い遊び人が好んで用いた、

とある。

「ゑぞにしきで大どんぶりをこしらへてこよう」(黄表紙・悦贔屓蝦夷押領)、

といった用例がある。三つめは、

職人などが着ける腹がけの前かくし、金などを入れる、

の意である(広辞苑)。

当てられた「丼」(漢音セイ、呉音ショウ)は、

「会意文字。『井(四角い井戸のわく)+・印(清い水のたまったさま)』で、清らかな水をあらわす。青(すみきってあおい)の下部に含まれる。ただし、のちには、井戸の清水を示す丼は井と書かれるようになった。枠を示す井(ケイ)は、かたちを変えて形・型にふくまれる」

とあり(漢字源)、井戸の意で、「丼」に、どんぶり鉢や、腹がけの丼などの意で使うのは、わが国だけである。いつごろから使われ出したかは、はっきりしないが、「丼」は、

「もともとは『井』の異体字として使われていたものらしい」

とあるhttps://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000175771が、集韻に、「丼」を、

投物井中聲、

とあり、もともと、

井戸に物を投げ入れた音、

の意がある。これは「どんぶり」の語源ともかかわってくる。

丼.jpg



「どんぶり鉢」の意の「どんぶり」の語源は、基本的に二つある。ひとつは、

物を深い水中に投げ入れる音、ドボン、ドブンの転訛。深い水の意から転じてどんな料理でも入る、深くて大きい投企の食器、

であり、いまひとつは、

上方の婦女子の番袋(雑多な物入)の転訛が、ダンブクロで、これにならって、何でも入る大きな鉢をダンブリ鉢、丼鉢といいはじめた、

とするものである(日本語源広辞典)。

前者の擬音説は、

「丼 寛文ごろの江戸で、ケンドンヤの名で、盛切りのめし、そば、うどんを売る店があった。客に突けんどんに盛切りのたべものを出したから、慳貪(けんどん)の名が付けられたという。盛切りの鉢をケンドン振りの鉢といったのが、上略してドンブリ鉢となり、ドンブリとなった。丼の字は、井戸の中に小石を落とすとドンブリと音がする意で作られた」

とあり(堀井令以知『語源大辞典』)、たべもの語源辞典も、

「元禄時代の二十年ほど前、寛文(1661~73)ころ江戸に、けんどん屋という名称で、盛切りのめし・そば切・うどんなどを売る店ができ、繁盛した。当時の流行歌に『八文もりのけんどんや』(見頓屋)というような文句がみえる。けんどん屋という名称は、盛切り一杯のたべものを出すことが、客に対して,突けんどん(慳貪)だということから、名づけられた。けんどん屋が盛切り一杯にした器、つまり鉢を『けんどん振りの鉢』と呼んだ。鉢は皿よりも深くて、すぼんでおり、瓶よりよりも口の開いた器の名称である。けんどんぶりの鉢が、どんぶり鉢と呼ばれ、鉢を略して、どんぶりとなった。丼という字は、中国文字であるが、井戸の中に小石を落とすとドフリと音がするということから、この字をどんぶりとよんだ」

とする。しかし、語源由来辞典は、

「丼の語源は、江戸時代、一杯盛り切りの飲食物を出す店を『慳貪屋(けんどんや)』と 言い、そこで使う鉢が『慳貪振り鉢(けんどんぶりばち)』と呼ばれていた事から、それが略され『どんぶり鉢』になったといわれる。 慳貪とは『けちで欲深い』という意味で、慳貪屋で出されるものは『慳貪めし』や『慳貪そば』と呼ばれ、それを運ぶものは『慳貪箱』といった。八丈島で『どんぶり鉢』を『けんどん』と言い、この名残と考えられている」

としつつ、

「しかし、江戸時代、更紗や緞子などでつくった大きな袋も『どんぶり』と呼ばれている。そのことから、『慳貪振り鉢』の略ではなく、物を無造作に放り込むさまを表したもので、『どぶん』『どぼん』と同じ、物が水中に落ちる擬音語の『どんぶり』とも関係すると考えられる」

と後者の「袋」説を採る。同様に、

「駄荷袋(だにぷくろ)がなまった語の、だんぶくろからきた」

とする説https://wajikan.com/note/donburi/もある。しかし、

「天保(1830~44)ころには『けんどん』という食べ物はなくなっていたが、天明(1781~89)の頃には、鼻紙袋という携帯用の入れ物の名称としてどんぶりという名が用いられた。さらに、胴巻とか腰掛けについているかくしも、どんぶりとよばれるようになった」

とあるので、「どんぶり」という言葉だけが、残ったとみている(たべもの語源辞典)。で、

「安房では、居(すえ)風呂のことを『どんぶり』というし、越中地方では財布のことをどんぶりといい、中国地方では130~40石積の商人船をどんぶりとよんでいたが、いずれもいれもの(容器)と関係がある」

とし(仝上)、どんぶり鉢が、口が広くて何でも入るから、袋や財布の名になり、風呂はドブンとはゐる音からきて、商人船も、入れるほうからきている(仝上)のではないか、とする。大言海も、「どんぶり」は、

居(すえ)風呂の称、

とし、

出雲にて、風呂屋をドンブリ屋と云ふ、

とする。この説の時代考証が正しいのなら、

けんどんぶりばち→どんぶり鉢→どんぶり、

の転訛が、

口が広くて何でも入るから、

という意味から、他のものにも名づけられた、ということになる。他方、袋の意の、「どんぶり」は、

「だんぶくろ」を言い変えたものと云ふが、さていかがか」(江戸語大辞典)、
「だんぶくろの転訛と云ふ」(大言海)、
「商人の前掛けについたポケットを意味する『どんぶり』は、駄荷袋(だにぶくろ)の訛り」https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%BC%E9%89%A2

等々とあり、「だんぶくろ」からきている「どんぶり」は、「どんぶり鉢」の「どんぶり」とは由来を異にするのではないか。

腹かけ.jpg

(腹掛け)


「だんぶくろ」は、

段袋、
駄袋、

と当て、

駄荷袋の音便、

である(広辞苑)。しかも、その意は、

布製の大袋、信玄袋に似た、荷物袋、
幕末、様式訓練のとき兵が用いたズボン。袴を改良したもので、幅が広く、ゆったりしている、

とある(仝上)。

段袋.jpg

(西洋式細袴。上衣を筒袖といったときに、下衣を段袋といった 日本大百科全書より)


江戸語大辞典は、

段袋を連想させるのでいう、

として、

上部は腰板の袴と同じく、下部は股引のように筒になったもの、

とし、守貞謾稿には、

「本名不詳、俗にだんぶくろ、或いはとびこみ袴など云、文久元年の頃、江戸新に講術所を建つ、此所へ出て習兵の士用之、同三年始之未だ正名備わらず、多くは舶来の紺ごろふくりんにて作之、云々」

とある。幕末のズボンの意の「だんぶくろ」は別にして、

だんぶくろ→どんぶり、

と結果として、

丼、

を当てはめたためややこしいが、「どんぶり鉢」の「どんぶり」とは別系統と考えるのが妥当に思える。しかし、

口が広くて何でも入る、

という意で、両者は、今日、ほぼ重なってしまったのではあるまいか。

参考文献;
大槻文彦『大言海』(冨山房)
清水桂一『たべもの語源辞典』(東京堂出版)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 05:03
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