2020年03月13日

あすか


「あすか」は、

飛鳥、
明日香、

と当てる。

岡寺より飛鳥全景.jpg

(岡寺より飛鳥全景 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A3%9B%E9%B3%A5より)

「あすか」に、

飛鳥、

と当てるのは、「あすか」にかかる枕詞、

飛ぶ鳥の、

の表記をそのまま使ったもの、とされる(岩波古語辞典)。似た例は、

日下、

があり、これは「草香/草香」の枕詞が、

日の下の、

であったことから、とされる(仝上)。「飛ぶ鳥の」と枕詞を持つ歌は、

飛ぶ鳥の、明日香の里を、置きて去(い)なば、君があたりは、見えずかもあらむ(元明天皇)、
飛ぶ鳥の 明日香の川の 上つ瀬に 石橋渡し 下つ瀬に 打橋渡す……(柿本人麻呂)、

等々、万葉集にはたくさんある。

日本語の語源は、その「飛ぶ鳥の」の由来について、

「アスカ〈明日香、飛鳥〉の里は、推古天皇から文武天皇までおよそ百年間にわたる皇都の所在地で、(中略)政権のお膝元に住み富をたくわえて、なに不足ない生活をしていた都人たちは、トミタル(富み足る)明日香といって恵まれた生活を謳歌していた。『ミ』以下が隣接母韻間の母交(母韻交替)[iu]・[ao]・[ui]をとげるとトムトリ・トブトリ(飛ぶ鳥)に転音し、ここに明日香の枕詞が生まれた。
 枕詞の『飛鳥』の文字は『明日香』の地名表記の代用となり、両地名が併用されているうちに、やがて『明日香』にアスカの訓読が発生した。
 トミタル(富み足る)が『ミ』を落とすとトダルになって『豊かに栄える』という意味の用語になった。〈天つひつぎを知らしめすトダル天の御巣なして〉(古事記)」

とする。是非はともかく、

トミタル→トムトリ→トブトリ、

と転訛したとするものである。しかし、大言海は、「飛ぶ鳥の」の項で、

鳥のイスカの古名は、アスカなるべく、それに掛けて云へるならむ、

とする。天武紀を引き、

十五年七月、改元曰朱鳥元年、仍名宮曰飛鳥浄御原宮トアリ、此朱鳥ニ因ミテ、飛鳥ト云ヒシガ、其意ハ唯鳥ノ事ナリ、後ニハ、用ヰ馴レテ、飛鳥ノ字ヲ、直ニあすかト読ムニ至ル、

とする。「いすか」(鶍、交喙)は、スズメくらいの大きさの渡り鳥、秋に日本に渡来する。嘴が交叉しているのが特徴。しかし、「いすか」の古名が、

アスカ、

とはどこにも載らないので確かめようがない。ただ、「いすか」の派生語、

いすかし(佷し・很し)、

は、

いすかのようだ、

の意で(岩波古語辞典)、

心と人があわない、
心がねじけている、

という意味で使う。嘴が交叉しているためだろうか、神武紀に、

長髄彦…稟性、愎佷(イスカシマニモトリテ)不可教以天人之際、

とある例も、あまりいい意味では使っていない。こういう含意のある言葉を「あすか」の語源とする「イスカ」説はどうであろうか。他にも、「飛鳥」については、

大和のトブトリ(飛鳥)郷のアスカはしばしば皇居の知となったので、飛鳥とかいて、アスカと訓むようになった、とする説(日本古語大辞典=松岡静雄)、
アと仰ぎ見ればスカスカと羽音のするところから、飛鳥ヲアスカと云ふ(本朝辞源=宇田甘冥)、

等々がある。「とぶとり」郷という地名に少し違和感はある。むしろ、

アスカの地に鳥類が多く生息しているからだと思われる、

という説(飛鳥・歴史と風土を歩く)の方が、「あすか」の枕詞として「飛ぶ鳥」が使われた所以に近いかもしれない。

イスカ.jpg



では「あすか」の語源はどうであろうか。

スカはシキ(磯城)。キ(城)は柵壁その他の防備物で四辺を取囲んだ一郭の血をいう古語。朝鮮語にも同語がある(日鮮同祖論=金沢庄三郎)
アは接頭語。スカはスカ(住処)。住処は集落の意で、そこから転じて地名になった(日本古語大辞典=松岡静雄・世界大百科事典)、
スカ(スガ)=浄地にアの接頭語がついたもの(日本大百科全書)、
安宿の朝鮮音アンスクから転訛(てんか)した(古代地名語源辞典)、
ア+スカ(洲処)。飛鳥川の砂洲地帯だから(日本語源広辞典)、

等々諸説あるが、決め手はない。ただ、

洲処、

を当てる、「すか」は、

海岸の砂丘、小高いところ、

の意として、中部以東の地名に多いとある(岩波古語辞典)。大和の「あすか」は、

本来は天香久山の南、橘寺・岡寺に至る間の低い丘陵に囲まれた小範囲をさし、中央を飛鳥川が流れる、

地域を指し(世界大百科事典)、古代には、

飛鳥川の東岸をいい、すでに弥生(やよい)文化の遺物も認められるが、灰褐色、黄褐色土壌群に開発が進んだのは5世紀後半以来であった。これには北方系の乾田農法の技術が用いられたとみられ、この開発をさらに推し進めたのは蘇我(そが)氏を中心とする人々であった。以後、飛鳥川の流域一帯が、古代統一国家形成の主舞台となった、

とある(日本大百科全書)。広い意味の、

住処、

よりは、

すか(洲処)、

がふさわしいのではないか、という気がする。「こそあど」http://ppnetwork.seesaa.net/article/473304970.htmlで触れたように、「あ」は、

彼、

と当て、「遠称」であり、彼の地、といった含意であるが、別に、「あ」は、

吾、
我、

と当て、一人称の他に、接頭語として、

相手を親しんで呼ぶときに冠する語、転じて、軽蔑の意も表す、

とある(岩波古語辞典)。時代的な考証ができていないので、あくまで憶説だが、それなら、

ア+スカ(洲処)、

は意味がある。

参考文献;
前田富祺編『日本語源大辞典』 (小学館)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)

ホームページ;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;
http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

posted by Toshi at 04:44
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