か(醸)む

君がため醸(か)みし待酒(まちざけ)安(やす)の野にひとりや飲まむ友なしにして(大宰帥大伴卿) の、 かむ、 は、 醸造する、 意とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 か(醸)む、 は、 醸す、 の古語(岩波古語辞典)で、 「噛む」と同語源。酒は、古く、生米をかんで唾液とともに吐き出し、発酵させて造ったところから(デジタル大辞泉)、…

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すべをなみ

今夜(こよひ)の早く明けなばすべをなみ秋の百夜(ももよ)を願ひつるかも(笠金村) の、 すべをなみ、 は、 やるせないので、 と、注釈があり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 今夜(こよひ)の早く明けなばすべをなみ、 は、 楽しい今夜がまたたく間に明けてしまってはやるせないので、 と訳される(仝上)。 すべをなみ、 は、 術…

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こす

吉野川行く瀬の早みしましくも淀むことなくありこせぬかも(弓削皇子) の、 こせ、 は、 … してくれの意の補助動詞コスの未然形、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。初出は、 うれたくも鳴くなる鳥かこの鳥も打ち止め許世(コセ)ね(古事記)、 とあり、 こす、 は、動詞の連用形に付いて、 相手の動作、状態が自分に利益を与えたり、影響を…

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ぬかも

己妻(おのづま)と頼める今夜(こよひ)秋の夜の百夜(ももよ)の長さありこせぬかも(笠金村) 吉野川行く瀬の早みしましくも淀むことなくありこせぬかも(弓削皇子) の、 ヌカモ、 は、 願望、ヌは打消の助動詞、カモは詠嘆の助詞、 とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、前者は、 秋の夜の百夜(ももよ)の長さありこせぬかも、 は、 秋の長い夜を百も重ね…

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にきぶ

大君(おほきみ)の命畏(かしこ)み親(にき)びにし家を置きこもりくの泊瀬の川に舟浮(う)けて我が行く川の(万葉集) 黄葉(もみちば)の散り飛ぶ見つつにきびにし我れは思はず草枕旅をよろしと思ひつつ君はあるらむとあそそにはかつは知れども(笠金村) の、 親(にき)ぶ、 は、 馴れ親しむ意、 とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 あそそ、 は、 …

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たゆたふ

常(つね)やまず通ひし君が使(つかひ)来(こ)ず今は逢はじとたゆたひぬらし(高田女王) の、 たゆたふ、 は、 ためらう、 と訳されている(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 たゆたふ、 は、 揺蕩ふ、 猶予ふ、 と当て、 は/ひ/ふ/ふ/へ/へ、 と活用する、自動詞ハ行四段活用で(学研全訳古語辞典・精選版日本国語大辞典)、 …

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言痛(こちた)み

人言(ひとごと)を繁み言痛(こちた)み逢はずありき心あるごとな思ひ我が背子(高田女王) の、 言痛(こちた)み、 は、 言痛(こちた)し+接尾語み、 と思われ、 (人の噂が)激しくうるさくて仕方がないので、 と訳注される(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 人言(ひとごと)をしげみ言痛みおのが世にいまだ渡らぬ朝川渡る(但馬皇女) とも詠われ、 …

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人言(ひとごと)

人言(ひとごと)を繁み言痛(こちた)み逢はずありき心あるごとな思ひ我が背子(高田女王) の、 人言(ひとごと)、 は、 他人の言葉、 世人の言葉、 の意(広辞苑)、 ひとごと、 は、 他人言、 とも当てるように、 ひとごとの頼みがたさはなにはなる蘆の裏葉のうらみつべしな(後撰和歌集)、 と、 他人のいう言葉、 の…

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うちひさす

うちひさす宮に行く子をま悲しみ留(と)むれば苦し遣(や)ればすべなし(大伴宿奈麻呂宿禰) の、 うちひさす、 は、 「宮」「都」の枕詞、 とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 大君の敷きます国にうち日さす都しみみに里家はさはにあれどもいかさまに思ひけめかも(大伴坂上郎女)、 では、 うち日さす、 と当て、 美しい日の射す意か、 …

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雨障(あまつつ)み

雨障(あまつつ)み常する君はひさかたの昨夜(きぞ)の夜(よ)の雨に懲(こ)りにけむかも(大伴郎女) ひさかたの雨も降らぬか雨障み君にたぐひてこの日暮らさむ(万葉集) の、 雨障(あまつつ)み、 は、 雨を忌み嫌って家に籠ること、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 雨障(あまつつみ)、 は、 障(つつ)む、 が、 斎(つつ)むよ…

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うつたへに

神木(かむき)にも手は触るといふをうつたへに人妻といへば触れぬものかも(大伴安麻呂) の、 うつたへに、 は、 まるっきり、 ことさらに、 の意で、 打消しや反語に応じてそれを強める副詞、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 ある一つの事だけに向かうさまにいう、 とあり、 いちずに、 むやみに、 全く、 多く、 の意…

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神木(かむき)

神木(かむき)にも手は触るといふをうつたへに人妻といへば触れぬものかも(大伴安麻呂) の、 神木(かむき かんき、かみき) は、 神樹、 とも当て、 神の降臨する木、 をいい、 触れると神罰があるとされた、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 神聖な木、 をいい、 神体と考えられる木、 でもある(広辞苑)。 …

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三相(みつあひ)

我が持てる三相(みつあひ)に搓(よ)れる糸もちて付(つ)けてましもの今ぞ悔(くや)しき(安倍郎女) の、 三相、 は、 当時は双子糸(二相)が普通、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 三相(みつあひ)、 は、 三合、 とも当て、 三つのものを一つに組み合わせること、 の意味だが(精選版日本国語大辞典)、特に、糸・縄・紐など…

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いち柴

大原のこのいち柴のいつしかと我が思ふ妹に今夜(こよひ)逢へるかも(志貴皇子) の、 上二句は序、 とあり、 類音で「いつしかと」を起す、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 いち柴、 は、 天霧らし雪も降らぬかいちしろくこのいつ柴に降らまくを見む(万葉集)、 と、 いつしば、 と訓む説もあり(岩波古語辞典・広辞苑)、 …

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刈りばか

秋の田の穂田(ほだ)の刈りばかか寄りあはばそこもか人の我(わ)を言(こと)成さむ(草嬢) の、 刈りばか、 は、 稲刈りの分担範囲、 をいい、 刈りばかか寄りあはば、 を、 稲刈りの分担範囲のその場で、ついこんなに近寄ったら、 と訳注がある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 刈りばか、 の、 ばか、 は、 量(は…

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さぐくむ

朝なぎに水手(かこ)の声呼び夕なぎに楫(かぢ)の音(おと)しつつ波の上(うへ)をい行きさぐくみ岩の間をい行き廻(もとほ)り稲日都麻(いなびつま)浦みを過ぎて鳥じものなづさひ行けば(丹比真人笠麻呂)、 の、 稲日都麻(いなびつま)、 は、 加古川河口の三角洲、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。「水手」については触れた。 い行きさぐくむ、 は、 …

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さゐさゐしづみ

玉衣(たまきぬ)のさゐさゐしづみ家(いへ)の妹に物言はず来(き)にて思ひかねつも(柿本人麻呂) の、 玉衣、 は、 さゐさゐの枕詞、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。この、 玉衣(たまぎぬ)、 は、 珠衣、 とも当て、 「たま」は美称、 なので、 玉を飾ったような美しい衣服、 りっぱな衣服、 をいい、 …

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日(け)

一日(ひとひ)こそ人も待ちよき長き日(け)をかく待たゆれば有りかつましじ(八田皇女)、 の、 日(け)、 は、 上代語、カ(日)の転(広辞苑・岩波古語辞典)、 カ(日)の交替形(角川古語大辞典・小学館古語大辞典)、 「か(日)」と同語源という(デジタル大辞泉) フツカ(二日)・ミッカ(三日)の「カ(日)」が「ケ」に転じた(日本語の語源)、 などとあるのが大…

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負ひみ抱(むだ)きみ

子の泣くごとに男(をとこ)じもの負ひみ抱(むだ)きみ朝鳥(あさとり)の哭(ね)のみ泣きつつ恋ふれども験(しるし)をなみと言問(ことと)はぬものにはあれど(高橋朝臣) の、 負ひみ抱(むだ)きみ、 は、 負ぶってみたり抱いてみたりしてあやし、 と注釈があり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 ミ、 は、 動詞「見る」から派生した接尾語、 とする(…

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率(あども)ふ

もののふの八十伴(やそとも)の男(を)を召し集(つど)へ率(あども)ひたまひ朝狩(あさがり)に鹿猪(しし)踏み起し夕狩(ゆふがり)に鶉雉(とり)踏み立て大御馬(おほみま)の口抑(おさ)へとめ御心を見し明(あき)らめし(大伴家持) 八十伴(やそとも)の男(を)、 は、 多くの部族の男たち、 で、 率(あども)ふ(あどもう)、 は、 アドは「あどをうつ」…

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