みやびを

風流士(みやびを)と我れは聞けるをやど貸さず我れを帰せりおその風流士(石川郎女) の、 おその風流士、 の、 おそ、 は、 遲の意、 とあり、 のろまなこと、 とする(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 おそ、 は、 遲、 鈍、 と当て、 おそしの語幹、 とあり(広辞苑)、 あさ(浅)の母音交替形、 …

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八衢(やちまた)

橘の蔭踏む道の八衢(やちまた)に物をぞ思ふ妹(いも)に逢はずして(三方沙弥) の、 橘の蔭踏む道の、 の、 上二句は序、 八衢に(あれやこれやと)、 を起す(伊藤博訳注『新版万葉集』)とある。 八衢(やちまた)、 は、神代紀に、 八達之衢(やちまた)、 とあり、 道が八つに分かれたところ、 また、 道が幾つにも分か…

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しましく

吉野川行く瀬の早みしましくも淀むことなくありこせぬかも(弓削皇子) 秋山に散らふ黄葉(もみじば)しましくはな散り乱(まが)ひそ妹があたり見む(柿本人麻呂) の、 しましく、 は、 暫しく、 とあて、 しばらくの間、 少しの間、 の意である(広辞苑)。 しましく、 の、 クは副詞語尾、 とあり(岩波古語辞典)、 しまし…

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やすみしし

やすみしし我が大君し夕されば見(め)したまふらし明け来れば問ひたまふらし神岳(かみをか)の山の黄葉(もみち)を今日(けふ)もかも問ひたまはまし明日(あす)もかも見したまはましその山を(持統天皇) の、 やすみしし、 は、 八隅知し(八隅知之)、 安見知し(安見知之)、 安美知し(安美知之)、 などと当て(大言海・広辞苑)、 八隅を治める、また、心安く天…

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夫人(ぶにん)

我が里に大雪(おほゆき)降れり大原の古りにし里に降らまくは後(のち)(天武天皇)、 の詞書(和歌や俳句の前書きで、万葉集のように、漢文で書かれた場合、題詞(だいし)という)にある、 天皇、藤原夫人(ふぢはらのぶにん)に賜 ふ御歌一首、 とある、 夫人、 は、 天皇妻妾の第三位、 とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 藤原鎌足の娘、五百重娘。新田…

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荷前(のさき)

東人(あずまひと)の荷前(のさき)の箱の荷(に)の緒(を)にも妹(いも)は心に乗りにけるかも(久米禅師) の、 荷前、 は、 毎年諸国から献げる貢の初物、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。また、 心に乗る、 は、 男が女に対してのみいう。独詠の歌で結んでいる、 とある(仝上)。この歌は、 久米禅師、石川郎女を娉(つまど)ふ時の歌…

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弦(を)はく

み薦刈る信濃の真弓引かずして弦(を)はくるわざを知ると言はなくに(石川郎女) の、 み薦刈る、 は、 信濃の枕詞、 で、 上三句は女を本気に誘わないことの譬え、 とする(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 みこも、 は、 水菰、 水薦、 と当て、 水中に生える菰、 をいい、 みこも刈る、 で、 コモが…

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さなかづら

玉櫛笥(たまくしげ)みもろの山のさな葛さ寝ずはつひに有りかつましじ(万葉集) の、 さな葛、 は、 びなん葛か、 とあり、 上三句は序。類音で「さ寝ずは」を起す。サナは美称、 とし、 かつましじ、 の、 カツはできる意の下二段補助動詞、マシジは打消の推量の助動詞、 としている(伊藤博訳注『新版万葉集』)。ちなみに、 玉葛…

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山たづ

君が行き日(け)長くなりぬ山たづの迎へを行かむ待つには待たじ(万葉集)、 の、 山たづ、 は、注記として、 ここに山たづといふは、今の造木をいふ、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 山たづの、 で、 「迎へ」の枕詞、 となり、 山たづ、 は、 にわとこ、 で、 神迎えの霊木、 とある(仝上)。ちなみ…

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たはく

居(ゐ)明かして君をば待たむぬばたまの我が黒髪に霜は降るとも(万葉集)、 の詞書に、 右の一首は、古歌集の中(うち)に出づ、 とある。古歌集、 とは、 万葉集の編纂に供された資料の一つ。飛鳥・藤原朝頃の歌の集、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。さらに、続いて、 古事記に曰はく、 として、 軽太子(かるのひつぎのみこ)、軽太郎女(かるの…

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こもりくの

大君の命(みこと)畏(かしこ)み親(にき)びにし家を置きこもりくの泊瀬の川に舟浮けて(万葉集)、 の、 にきぶ、 は、 馴れ親しむ、 意とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 和ぶ、 とも当て、 荒ぶ、 の対、 で、 にきむ、 ともいい、 しろたへの手本(たもと)を別れ丹杵火(にきび)にし家ゆも出でて(万葉集)、 …

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弟日娘女(おとひをとめ)

霰打つ安良礼(あられ)松原住吉(すみのゑ)の弟日娘女(おとひをとめ)と見れど飽かぬかも(長皇子) の、 安良礼松原、 は、 大阪市住吉区付近の松原、 をいい、 住吉(すみのゑ)、 は、 すみよしの古称、 で、 大阪市住吉区、 とある(https://sanukiya.exblog.jp/26809964/)。 弟日娘子、…

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さつや

ますらをのさつ矢手挟(たばさ)み立ち向ひ射る円方(まどかた)は見るにさやけし(万葉集) の、 円方、 は、 三重県松阪市東部、 とあり、 さつや、 は、 幸多き矢、矢のほめことば、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 さつや、 の、 さつ、 は、 さち(幸)と同源(広辞苑)、 サツはサチ(矢)の古形(岩波…

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つらつら椿

巨勢山のつらつら椿つらつらに見つつ偲(しの)はな巨勢の春野を(万葉集) の、 偲ふ、 は、 眼前の物を通して眼前にない物を偲ぶ意、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 つらつら椿、 の、 ツラ、 は、 列の意、 で、 列列椿 と当て(広辞苑・岩波古語辞典)、 並んで数多く咲いている椿の花、 の意で、後…

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ともし

藤原の大宮仕へ生(あ)れ付くや娘子(をとめ)がともは羨(とも)しきろかも(万葉集) の、 羨(とも)しきろかも、 は、 羨ましきかぎりだ、 と訳注がある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 ろ、 は、 接尾語、 とあり(仝上)、 かの子ろと寝ずやなりなむはだすすき宇良野の山に月片寄るも(万葉集) や、 武蔵野のをぐき(小岫)が…

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いそふ

泉の川に持ち越せる真木のつまでを百足(ももた)らず筏に作り泝(のぼ)すらむいそはく見れば神からにあらし(万葉集) の、 百足(ももた)らず、 は、 「筏」の枕詞。百に足りない「い」(五十)の意、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。わかりにくいが、 百に足りない意で、「八十(やそ)」、「五十(い)」に掛かり、転じて、同音をもつ、「い」「や」などにかかり、八…

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背面(そとも)

耳成の青菅山(あおすがやま)は背面(そとも)の大き御門(みかど)によろしなへ神さび立てり名ぐはし吉野の山は影面(かげとも)の大き御門ゆ雲居にぞ(万葉集) の、 よろしなへ、 は、 いかにも具合よろしく、 とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 神さび、 は、 神さびる、 で触れたように、 神々(こうごう)しい、 意で、 名…

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采女

采女(うねめ)の袖吹きかへす明日香風都を遠みいたづらに吹く(万葉集) の、 采女、 は、 郡の次官以上の容姿端麗な姉妹子女で、宮廷に召された者。天皇の身辺に奉仕、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 采女、 は、 うねべ、 とも訓ませ、 娞、 とも書く(日本大百科全書)。 宮中において天皇に近侍し、主として炊事や食事な…

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荒栲(あらたへ)

やすみしし我が大君高照らす日の皇子(みこ)荒栲(あらたへ)の藤原が上に食(を)す国を見したまはむと(万葉集)、 の、 荒栲の、 は、 「藤原」(大和三山に囲まれる地帯)の枕詞、 で、 藤蔓の布、 の意(伊藤博訳注『新版万葉集』)とある。 荒栲、 は、 荒妙、 粗栲、 麁栲、 麁妙、 等々と当て(広辞苑・岩波古語辞典・精選…

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かぎろひ

東(ひむがし)の野にはかぎろひ立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ(万葉集) の、 かぎろひ、 は、 あけぼのの陽光、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 陽炎、 火光、 と当て、 明け方の日の出るころに空が赤みを帯びて見えるもの(精選版日本国語大辞典)、 日の出前に東の空にさしそめる光(広辞苑)、 東の空に見える明け方の光、曙光(しよ…

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