そらかぞふ

そら数ふ大津の子が逢ひし日におほに見しくは今ぞ悔しき(柿本人麻呂) の、 おほに見し、 は、 ぼんやりと、 の意とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 そら数ふ、 は、 空で数えると大凡である、 の意とあり、 大津、 にかかる枕詞とある(仝上)。 そらかぞふ、 は、 空數ふ、 と当て、 語義・かかる…

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あはに

降る雪はあはにな降りそ吉隠(よなばり)の猪養(ゐかひ)の岡の寒くあらまくに(穂積皇子) の、 あはに、 は、 数量の多いことを言う副詞、 で(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 多く、 たくさん、 の意であり(広辞苑)、一説に、 深く、 の意とある(デジタル大辞泉・精選版日本国語大辞典)。 あはに、 は、 「さわに」と同源か…

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木綿花(ゆふばな)

木綿花(ゆふばな)の栄ゆる時に我が大君皇子(みこ)の御門を(一には「刺す竹の皇子の御門(みかど)を」といふ)神宮(かむみや)に装(よそ)ひまつりて(柿本人麻呂)、 の、 木綿花(ゆふばな)、 は、 ゆうはな、 とも訓ませ、 木綿(ゆう)の白さを花にたとえた語、 とある(デジタル大辞泉)が、一説に、 木綿で作った白い造花(仝上・広辞苑)、 楮(…

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かけまく

かけまくもゆゆしきかも(一には「ゆゆしけれども」といふ)言はまくもあやに畏(かしこ)き(柿本人麻呂) は、この長歌の、結びの、 天のごと振り放(さ)け見つつ玉たすき懸けて偲はむ畏(かしこ)くあれども、 の五句と響き合う(伊藤博訳注『新版万葉集』)とあり、冒頭は、 心にかけて思うのも憚り多いことだ。(憚り多いことであるけれども)ましてや口にかけて申すのも恐れ多い、 …

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あぢさはふ

御食向(みけむか)ふ城上(きのへ)の宮を常宮(とこみや)と定めたまひてあぢさはふ目言(めこと)も絶えぬ(柿本人麻呂)、 の、 御食向ふ、 の、 みけ、 は、 神や天皇の食事、食膳の意、 向う、 は、 食膳で種々の食物が向かい合っていること、 の意で(精選版日本国語大辞典)、その中に、 葱(き ねぎ)・粟(あわ)・蜷(みな にな…

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もころ

我が大君の立たせば玉藻のもころ臥(こ)やせば川藻のごとく靡(なび)かひし(柿本人麻呂)、 の、 もころ、 は、 如く、 の意の古語(伊藤博訳注『新版万葉集』)とあり、 如、 若、 と当て、上代、 ごと(如)、 にあたり、 同じような状態、 よく似た状態、 の意で、 ……の如く、 と、 常に他語による修飾を…

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ををる

絶ゆれば生(お)ふる打橋に生ひををれる川藻もぞ枯るれば生ゆるなにしかも(柿本人麻呂) の、 生ひををれる、 は、 茂り撓む意の「ををる」に完了の「り」のついた形、 で、 生い茂っている、 と訳される(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 ををる、 は、 ら/り/る/る/れ/れ、 と活用する、自動詞ラ行四段活用で、 撓る、 生る…

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たたなづく

玉藻なすか寄りかく寄り靡(なび)かひし夫(つま)の命(みこと)のたたなづく柔肌(にきはだ)すらを剣(つるぎ)大刀身添へ寝(ね)ねば(柿本人麻呂) の、 剣(つるぎ)大刀、 は、 身に添ふ、 の枕詞、 たたなづく、 は、 柔肌、 の枕詞、 身体を豊かに包んでいる意か、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 たたなづく、 …

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おほほし

夢(いめ)にだに見ずありしものをおほほしく宮出(みやで)もするかさ檜(ひ)の隈廻(くまみ)を(万葉集) 朝日照る島の御門におほほしく人音(ひとおと)もせねばまうら悲も(仝上)、 の、 宮出(みやで)もする、 は、 真弓の殯宮に出仕する意、 とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 檜(ひ)の隈廻(くまみ)、 は、 明日香の檜前(ひのくま)。真弓の…

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ふとしく

高照らす日の御子は明日香の清御原(きよみ)の宮に神ながら太敷きましてすめろき(天皇)の敷きます国と(万葉集)、 の、 太敷く、 は、 か/き/く/く/け/け と活用する、 他動詞カ行四段活用、 で、 ふと(太)、 は、 形容詞「ふとし」の語幹相当部分、 で(精選版日本国語大辞典)、 物の直径が大きい意、接頭語的に使う、 …

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御斎會(ごさいえ)

萬葉集の詞書(和歌や俳句の前書きで、万葉集のように、漢文で書かれた場合、題詞(だいし)という)に、 (天武)天皇の崩(かむあが)りましし後の(持統)八年九月九日の奉為(おほみため)の御斎会の夜に、夢の裏に習ひたまふ御歌一首、 とある、 御斎会(ごさいゑ・おさいゑ・みさいゑ)、 は、 宮中公事の一つ、 で、 精進潔斎の法會、 とある(大言海)。 …

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大殯(おほあらき)

かからむとかねて知りせば大御船(おほみふね)泊(は)てし泊(とま)りに標(しめ)結(ゆ)はましを(額田王) の、 詞書(和歌や俳句の前書きで、万葉集のように、漢文で書かれた場合、題詞(だいし)という)にある、 天皇の大殯の時、 の、 大殯(おほあらき)、 は、 天皇の殯、 をいい、 殯、 は、 新城、 で、 葬る以…

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言(こと)さへく

つのさはふ石見の海の言(こと)さへく唐(から)の崎なる海石(いくり)にぞ深海松(ふかみる)生(お)ふる荒磯(ありそ)にぞ玉藻は生ふる(柿本人麻呂)、 の、 つのさはふ、 は、 石見の枕詞、 で、 草の芽を遮る意か、 とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 言さへく、 は、 唐の枕詞、 で、 言葉が騒がしく通じにくいの意、 …

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はふる

和田津(にきたつ)の荒磯(ありそ)の上にか青く生(お)ふる玉藻沖つ藻朝羽振(はふ)る風こそ寄らめ夕(ゆふ)羽振る波こそ来寄れ(柿本人麻呂) の、 はふる、 は、 翥る、 羽振る、 と当て、 鳥がはばたきをする、 意である(岩波古語辞典)。また、 朝羽振る風こそ寄せめ夕羽振る波こそ来寄れ波のむたか寄りかく寄り(万葉集)、 朝羽振る波の音騒くあ…

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ゆくゆくと

丹生(にふ)の川瀬は渡らずてゆくゆくと恋(こひ)痛(いた)し我が背(せ)いで通ひ来(こ)ね(長皇子) の、 ゆくゆくと、 は、 行く行くと、 で、 心はやる意か、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 ゆくゆく、 は、 動詞「行く」を重ねた語、 で(精選版日本国語大辞典)、 ゆくゆくその惡もあらわれ候事(沢庵書簡)、 …

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みやびを

風流士(みやびを)と我れは聞けるをやど貸さず我れを帰せりおその風流士(石川郎女) の、 おその風流士、 の、 おそ、 は、 遲の意、 とあり、 のろまなこと、 とする(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 おそ、 は、 遲、 鈍、 と当て、 おそしの語幹、 とあり(広辞苑)、 あさ(浅)の母音交替形、 …

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八衢(やちまた)

橘の蔭踏む道の八衢(やちまた)に物をぞ思ふ妹(いも)に逢はずして(三方沙弥) の、 橘の蔭踏む道の、 の、 上二句は序、 八衢に(あれやこれやと)、 を起す(伊藤博訳注『新版万葉集』)とある。 八衢(やちまた)、 は、神代紀に、 八達之衢(やちまた)、 とあり、 道が八つに分かれたところ、 また、 道が幾つにも分か…

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しましく

吉野川行く瀬の早みしましくも淀むことなくありこせぬかも(弓削皇子) 秋山に散らふ黄葉(もみじば)しましくはな散り乱(まが)ひそ妹があたり見む(柿本人麻呂) の、 しましく、 は、 暫しく、 とあて、 しばらくの間、 少しの間、 の意である(広辞苑)。 しましく、 の、 クは副詞語尾、 とあり(岩波古語辞典)、 しまし…

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やすみしし

やすみしし我が大君し夕されば見(め)したまふらし明け来れば問ひたまふらし神岳(かみをか)の山の黄葉(もみち)を今日(けふ)もかも問ひたまはまし明日(あす)もかも見したまはましその山を(持統天皇) の、 やすみしし、 は、 八隅知し(八隅知之)、 安見知し(安見知之)、 安美知し(安美知之)、 などと当て(大言海・広辞苑)、 八隅を治める、また、心安く天…

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夫人(ぶにん)

我が里に大雪(おほゆき)降れり大原の古りにし里に降らまくは後(のち)(天武天皇)、 の詞書(和歌や俳句の前書きで、万葉集のように、漢文で書かれた場合、題詞(だいし)という)にある、 天皇、藤原夫人(ふぢはらのぶにん)に賜 ふ御歌一首、 とある、 夫人、 は、 天皇妻妾の第三位、 とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 藤原鎌足の娘、五百重娘。新田…

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