釧(くしろ)

釧(くしろ)着く答志(たふし)の崎に今日(けふ)もかも大宮人の玉藻刈るらむ(万葉集) の、 釧(くしろ)着く、 は、 答志(たふし)の枕詞、 で、 釧(くしろ)着く、 は、 釧を着ける手節、 の意か(伊藤博訳注『新版万葉集』)とある。 釧をつけるから(広辞苑)、 釧は手に巻くので(岩波古語辞典)、 釧を着ける手から(デジタル大辞…

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スペクトラム

小林憲正『生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか』を読む。 生命を維持するのに欠かせないタンパク質が、偶然にできる確率は、 10の四万乗分の1 と試算され(フレッド・ホイル)、生命誕生には、 「多数のヌクレオチド(核酸を構成する単位)を結合させたリボ核酸、いわゆるRNAが必要とされている」(序章) が、 「条件を満たすRNAをつくるには、…

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小網(さで)

行き沿ふ川の神も大御食(おほみけ)に仕へ奉(まつ)ると上(かみ)つ瀬に鵜川を立ち下(しも)つ瀬に小網(さで)さし渡す山川も依りて仕ふる(万葉集) の、 上つ瀬、 の、 ツ、 は、 連体助詞、 で、 上つ枝(かみつえ)・下つ枝(しもえ) 上つ方・下つ方、 等々と使う(岩波古語辞典)が、 隠国(こもりく)の泊瀬の川の賀美都勢(カミツセ…

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白栲(しろたへ)

春過ぎて夏来(きた)るらし白栲(しろたへ)の衣干したり天の香具山(万葉集) の、 白栲、 は、 まっ白い、 の意、 栲、 は、 楮の樹皮で作った白い布、 とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 衣干したり、 を、 白い布を斎衣と見たものか、 と注釈する(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 白栲、 は、 し…

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打麻(うちそ)

打ち麻(そ)を麻続(をみ)の王(おほきみ)海人(あま)なれや伊良虞(いらご)の島の玉藻刈ります(万葉集) の、 打ち麻を、 は、 麻続(をみ)、 つまり、 麻続(ヲウミの略)、 にかかる枕詞(伊藤博訳注『新版万葉集』)とある。 打麻(うちそ)、 の、 そ、 は、 麻(あさ)、 のこと(精選版日本国語大辞典)、 …

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時じ

み吉野の耳我(みみが)の山に時(とき)じくぞ雪は降るといふ間なくぞ雨は降るといふその雪の時じきがごとその雨の間なきがごと隈もおちず思ひつつぞ来しその山道を(万葉集) の、 時じく、 時じき、 とあるのは、形容詞シク活用の、 (じく)・じから/じく・じかり/じ/じき・じかる/じけれ/じかれ と活用する、 時じ、 で(学研全訳古語辞典)、 非時、…

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武家の実像

武士生活研究会編『図録近世武士生活史入門事典』を読む。 本書は、武家、殊に江戸時代の武家の、 身分、職制、 服装、 儀礼と儀式、 政治、 経済生活、 居住、 食生活、 女性、 教育、 文化、娯楽、 などと、生活全般の、実情を網羅したものになっている。 特に、その収入と生活をみると、 定収入である、 禄、 と、 役職に伴…

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くま(隈)

味酒(うまざけ)三輪の山あをによし奈良の山の山の際(ま)にい隠るまで道の隈(くま)い積(つ)もるまでにつばらに見つつ行かむをしばしばも見放(みさ)けむ山を心なく雲の隠さふべしや(万葉集) の、 道の隈(くま)、 は、 道の曲り角が幾つも重なるまで、 の意で、 隈、 は、 邪神の籠る所、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 見放(み…

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あをによし

味酒(うまざけ)三輪の山あをによし奈良の山の山の際(ま)にい隠るまで道の隈(くま)い積(つ)もるまでにつばらに見つつ行かむをしばしばも見放(みさ)けむ山を心なく雲の隠さふべしや(万葉集) の、 あをによし、 は、 「奈良」の枕詞、 で、 あをに、 は、 青土、 で、 顔料、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 あをによ…

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もがも

川(かは)の上(うへ)のゆつ岩群(いはむら)に草生(む)さず常にもがもな常処女(とこをとめ)にて(万葉集) の、 ゆつ、 は、 斎つ、 と当て、 ツは連体助詞で、 いわい清める、 意で、 おろそかに触れるべからざる、 神聖・清浄な、 の意で使う(広辞苑・岩波古語辞典)。 草生(む)さず常にもがもな常処女(とこをとめ)にて、 …

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綜麻(へそ)

綜麻形(へそかた)の林のさきのさ野榛(のはり)の衣(きぬ)に付くなす目につく我が背(万葉集) の、 榛、 は、 はんの木。実や樹皮を染料にした。「針」の懸詞、「衣」の縁語で、三輪山伝説に基づく、 とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。 (三輪山 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%89%E8%BC%AA%E5%B1%…

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河伯(かはく)

河伯、 は、 河童の異名、 であるが、 河童、 で触れたように、日本書紀に、 河内の人茨田連衫子(マンダノムラジコロモノコ)が河伯(カハノカミ)を欺き得たる両個の瓢(ひさご)なる者は(仁徳紀)、 と、 河伯(かはのかみ)、 は、 河神、 のこととされている。もともと、「河童」は、 田の水を司り、田の仕事を助けることもある…

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中弭(なかはず)

やすみしし 我が大君の 朝(あした)には とり撫(な)でたまひ 夕(ゆうべ)には い縁(よ)り立たしし み執(と)らしの 梓の弓の 中弭(なかはず)の 音すなり 朝猟(あさがり)に 今立たすらし 夕猟(ゆふがり)に 今立たすらし み執らしの 梓の弓の 中弭(なかはず)の 音すなり(万葉集) の、 中弭(なかはず)、 は、 弓の中程、矢筈をつがえるところか、 とあ…

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うまし

国見をすれば国原は、煙(けぶり)立ち立つ、海原(うなはら)は、鴎立ち立つ、うまし国ぞ、蜻蛉島(あきづしま)、大和の国は(万葉集)、 の、 うまし、 は、 シク活用形容詞、 で、 佳い、 の意(伊藤博訳注『新版万葉集』)、 蜻蛉島、 は、 大和の枕詞、 で、 とんぼのような豊かさに対する賛美、 とある(仝上)。現代口…

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たまゆら

たまゆらの露も涙もとどまらずなき人恋ふる宿の秋風(新古今和歌集)、 の、 たまゆらの、 は、 しばしの、 の意、 「玉」の連想で、下の「露」「涙」と縁語、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 たまゆら、 は、 玉響、 と当て、 玉響(たまかぎる)きのふの夕(ゆふへ)見しものを今日の朝(あした)に恋ふべきものか(万葉…

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にほひ

形見とて見れば歎きの深見草なになかなかのにほひなるらむ(新古今和歌集)、 の、 にほひ、 は、 美しい色、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 にほひ、 は、 にほふ、 の連用形の名詞化になるが、 香水の匂い、 というように、 薫り、 香気、 の意のイメージが強く、類聚名義抄(11~12世紀)にも、 …

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八束

神代よりけふのためとや八束穂(やつかほ)に長田(おさだ)の稲のしなひそめけむ(新古今和歌集)、 の、 八束穂、 の、 束、 は、 握、 で、 指四本の幅、 八、 は、 大きな数として言う、 とあり(久保田淳訳注『新古今和歌集』)、 八束穂、 は、 非常に長い穂、 の意となる(仝上)。 やつか…

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卯杖(うづゑ)

相生(あひおひの)の小塩(をしほ)の山の小松原今より千代の蔭を待たなむ(新古今和歌集)、 の詞書に、 後冷泉院幼くおはしましける時、卯杖の松を人の子に賜はせけるに、よみ侍る、 とある、 卯杖の松、 の、 卯杖、 とは、 邪気を払う杖、 をいい、 正月初卯の日、諸衛府、大舎人寮から皇室に献上された、 とある(久保田淳訳注『新古今…

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ときはかきはに

万世(よろづよを)を松の尾山の蔭茂み君をぞ祈るときはかきはに(新古今和歌集)、 の、 ときはかきはに、 は、 永久不変に、 の意とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 ときはかきはに(ときわかきわに)、 は、 常磐堅磐に、 と当て、 とこしえに、 永久不変に、 の意とある(広辞苑・大言海)。 常磐、 は、 …

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六塵

濁りなき亀井の水をむすびあげて心の塵をすすぎつるかな(新古今和歌集)、 の、 亀井の水、 は、 四天王寺境内の亀井堂にある井泉、 で、 劫を経て救ふ心の深ければ亀井の水は絶ゆる世もあらじ(赤染衛門)、 と、 石の亀の像の下から霊水が湧き出る、 とある(久保田淳訳注『新古今和歌集』)。 心の塵、 は、仏教でいう、 六塵の樂…

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