さ丹付(につ)く


大和の宇陀の真赤土(まはに)のさ丹付(につ)かばそこもか人の我(わ)を言(こと)なさむ(万葉集)

の、

真赤土、

の、

真、

は、

完全を示す接頭語、

赤土、

は、詞書(和歌や俳句の前書きで、万葉集のように、漢文で書かれた場合、題詞(だいし)という)の、

埴(はに)に寄す

の、

埴、

と同じで、

顔料に用いる赭土、粘土、

とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。

埴(はに)、

は、

埴生

で触れたように、

質の緻密な黄赤色の粘土、昔はこれで瓦・陶器をつくり、また、衣に摺りつけて模様を表した、

とある(広辞苑)。

埴土(はにつち)、
赤土(あかつち)、
黄土、
ねばつち、
粘土(ねんど)、
へなつち(粘土・埴)、
へな、
はね、

ともいう(仝上・デジタル大辞泉・精選版日本国語大辞典)。和名類聚抄(931~38年)に、

土黄而細密曰埴、波爾、

とある。

さ丹付(につ)かば、

は、

さ丹付(につ)く、

で、

赤面することの譬、

とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。

さ丹、

は、

サは接頭語、

で、

丹、

は、

赤い色、

の意、

丹着く、
丹付く、

の、

つく、

は、

接尾語、

で、

「がたつく」「ぶらつく」「ふらつく」などのように、擬声語・擬態語などについてこれを四段活用の動詞化し、そういう動作をする状態、そのような状態になってくる意を表わす、

とみる(精選版日本国語大辞典)こともできるが、

つく

で触れたように、

付く、
着く、

とあて、

「ツク(付着する)」です。離れない状態となる意です、

という意(日本語源広辞典)で、

二つの物が離れない状態になる(ぴったり一緒になる、しるしが残る、書き入れる、そまる、沿う、注意を引く)、

という意味になり、ここでは、

丹に染まる、

意と見ていいだろう。たとえば、

ま櫛もち ここにかき垂れ 取り束ね 上げても巻きみ 解き乱(みだ)り 童(わらは)髪になしみ さ丹つかふ 色になつける 紫の 大綾(おほあや)の衣(きぬ)(万葉集)、

の(「童(わらは)髪」はざんばらがみの意)、

さ丹つかふ、

では、

サは接頭語、

で、

丹つかふ、

は、

丹着くに反復継続の接尾語フのついた形、

で、

赤味ががる、

意となり、

フ、

は、

四段活用の動詞を作り、「呼ぶ」「散る」ならば普通一回だけ呼ぶ、散る意を表すが、「散らふ」「呼ばふ」といえば、何回も繰り返して、呼ぶ、散る戸をはっきりと表現する。元来は、四段活用の動詞「アフ(合)」で、これが動詞連用形の後に加わって成立したもの、

とあり(岩波古語辞典)、

さ丹つかふ 色になつける、

は、

ほの赤い頰によく似合った。

と訳している(伊藤博訳注『新版万葉集』)。また、

何かと問はば 答へ遣(や)る たづきを知らに さ丹つらふ 君が名言はば 色に出でて 人知りぬべみ(万葉集)、

での、

さ丹つらふ、

は、

凛々しく立派な、

とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)が、

サ、

は、接頭語、

赤い頬をした、

の意で(岩波古語辞典)、

紅顔の意から、「君」「妹」、赤い色の意から、「もみぢ」「紐」「色」にかかる枕詞、

とする(仝上)説のほか、

(後世「さにづらう」とも)赤く照り輝いて美しいの意。「色」「君」「我が大君」「妹」「紐」「紅葉(もみじ)」を形容することばとして用いられる。「つらう」は、一説に、「移らふ」の意とする、

ととする説(精選版日本国語大辞典)もある。ただ、

「万葉集」に九例あるが、すべて連体修飾語として用いられており、枕詞とする説もある。中古、中世には用例がほとんど見られないが、近世に至って国学者達によって再び用いられるようになる、

と付説してもいる(仝上)。

埴生

で触れたように、

はに(埴)、

の、

に、

にあてる字は、

土、
丹、

で、

土・丹の意をなす「な」の転(広辞苑)、
に(丹)はニ(土)と同根(岩波古語辞典)、
ニ(丹)は赤土(アカニ)に起こる(大言海)、

とあり、

土、

丹、

の両者の関係は深いが、

土(に)、

は、

櫟井(いちひゐ)の丸邇坂(わにさ)の邇(ニ)を端土(はつに)は膚赤らけみ底土(しはに)はに黒きゆゑ三栗のの中つ邇(ニ)を(古事記)、

と、

土、特に赤い色の土、

また、

取り佩ける大刀の手上に丹(に)画き著け(古事記)、

と、

辰砂(しんしゃ)あるいは、赤色の顔料、

つまり、

あかに、

を言い(日本語源大辞典)、

丹(に)、

は、

海は即ち青波浩行(ただよ)ひ、陸は是れ丹(に)の霞空朦(たなび)けり(常陸風土記)、

と、

赤い色(日本語源大辞典)、

あるいは、

朱色の砂土、顔料にした(岩波古語辞典)、

を言うので、

赤色の土→赤色→顔料、

という流れが通底しているのだとは思う。で、

土(に)、

の語源は、

ハニ(埴)の義(類聚名物考・言元梯・名言通)、
粘液ある物であるところから(日本語源=賀茂百樹)、

とし、

丹(に)、

の語源は、

アカニ(赤土)から(国語本義・大言海・日本語源=賀茂百樹)、
朝日がニイと出た時の色は赤いところから(本朝辞源=宇田甘冥)、
ニホフの語根ラの名詞化で、映ある物を示す(国語の語根とその分類=大島正健)、

と、由来を分けているが、

丹、

の色から、

土、
丹、

と、漢字を当て別けただけで、

赤土=に(丹・土)、

として使っていたのに違いない。

「丹」.gif

(「丹」 https://kakijun.jp/page/0405200.htmlより)

「丹」 甲骨文字・殷.png

(「丹」 甲骨文字・殷 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%B9より)

「丹」 金文・西周.png

(「丹」 金文・西周 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%B9より)

「丹」 中国最古の字書『説文解字』.png

(「丹」 中国最古の字書『説文解字』(後漢・許慎) https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%B9より)

「丹」(タン)の異体字は、

㐤、㣋、𠁿(古字)、𠂁、𠕑(古字)、𢒈、

とあるhttps://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%B9。字源は、「あをによし」で触れたように、

会意文字。土中に掘った井型のわくの中から、赤い丹砂が現れ出るさまを示すもので、あかい物があらわれ出ることをあらわす。旃(セン 赤い旗)の音符となる、

とある(漢字源)が、

会意。「井」+「丶」、木枠で囲んだ穴(丹井)から赤い丹砂が掘り出される様https://ja.wiktionary.org/wiki/%E4%B8%B9

と、会意文字ともあり、また、

象形。採掘坑からほりだされた丹砂(朱色の鉱物)の形にかたどる。丹砂、ひいて、あかい色や顔料の意を表す(角川新字源)、

象形文字です。「丹砂(水銀と硫黄が化合した赤色の鉱石)を採掘する井戸」の象形から、「丹砂」、「赤色の土」、「濃い赤色」を意味する「丹」という漢字が成り立ちましたhttps://okjiten.jp/kanji1213.html

象形。丹井(たんせい)に丹(に)のある形。丹は朱砂の状態で出土し、深い井戸を掘って採取する。〔説文〕五下に「巴越の赤石なり。丹井にるに象る。丶は丹の形に象る」という。〔史記、貨殖伝〕に、蜀の寡婦の清が、丹穴を得て豪富をえたことをしるしている。〔書、禹貢〕に、荊州に丹を産することがみえる。金文の〔庚贏卣(こうえいゆう)〕に「丹一木+厈(かん)」を賜うことがみえ、聖器に塗るのに用いた。甲骨文の大版のものには、その刻字の中に丹朱を加えており、今も鮮明な色が残されている。〔抱朴子、仙薬〕には、丹を仙薬とする法をしるしている。丹には腐敗を防ぐ力があり、古く葬具にも用いられ、殷墓からは、器が腐敗し、その朱色が土に残された花土の類が出土する(字通)、

は、象形文字とする。

参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)

ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95

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