きぎし
春の野にあさる雉(きぎし)の妻恋ひにおのがあたりを人に知れつつ(大伴家持)
の、
きぎし、
は、
きじ、
である(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
きぎし、
は、
雉、
雉子、
とあて、
きじの古名、
とあり(広辞苑)、
きぎす、
ともいう(岩波古語辞典・デジタル大辞泉)。和名類聚抄(931~38年)には、
雉、野なり、木木須、一云、木之(歧々須(きぎす)、一に云ふ、歧之(きじ))、
類聚名義抄(11~12世紀)に、
雉、キギス・キジ・タフル、
とある。古くは、万葉集では、
あしひきの八(や)つ峰(を)の雉(きぎし)鳴き響(とよ)む朝明(あさけ)の霞見ればかなしも、
杉(すぎ)の野にさ躍(をど)る雉(きぎし)いちしろく音(ね)にしも泣かむ隠(こも)り妻(つま)かも、
などと、
きぎし、
と呼ばれていたが、それが、
ききず、
に転じた。ただ、
「きぎし」から「きぎす」に移行した時期は不明、
とある(日本語源大辞典)。
きぎし、
の由来は、
鳴き声による名か(岩波古語辞典)、
キギは鳴く聲。キキン、今はケンケンと云ふ、シはスと通ず。鳥に添ふる一種の音。…キギシのキギスと轉じ(夷(えみじ)、エビス)、今は約めてキジとなる(大言海)、
きんきんと鳴くところから(嚶々筆語)、
などとあり、
きぎし、
の、
し、
が転訛した、
す、
の由来は、何度も触れたことだが、
ウグイス、
カラス、
ホトトギス、
等々で触れたように、接尾語、
ス、
は、
カケス、キギス、ウグイス、ホトトギス、
等々鳥の名を表し、
ウグイス、
が、
ウクイ(うーぐい)という鳴く聲、スは鳥の接尾語、
カラス、
が、
鳴き声「ころ」「から」+ス、
ホトトギス、
が、
「ホトホト」という鳴き声+「ス」、
と、同系と見ることができるので、
きぎす、
は、
キギ(金属的な鳴声)+ス(鳥の意味の接尾語)、
とみることができる(日本語源広辞典)。
キジ、
で触れたように、これが、
キギシ→キギス→キジ、
と転訛していく。「古今六帖(古今和歌六帖)」(976~987年)頃)では、すでに、
「きじ」が項目名となっている、
とある(日本語源大辞典)。いまは、
ケン・ケーン、
と聞くが、かつては、
キキン、
キンキン、
と聞えたということだろう。江戸時代中頃から、キジの雄鶏の鳴き声を、
けんけん、
と写すようになった(擬音語・擬態語辞典)とある。
「雉」(漢音チ、呉音ジ)は、
会意兼形声。「隹+音符矢(シ・チ)」で、まっすぐ矢のように飛ぶ鳥の意。転じて、まっすぐな直線をはかる単位に用いる(一雉は、高さ一丈、長さ三尺)、
とある(漢字源)が、他は、
形声。「隹」+音符「矢 /*LI/」。「きじ」を意味する漢語{雉 /*l(r)iʔ/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%9B%89)、
形声。声符は矢(し)。矢に彘(てい)の声がある。〔説文〕四上に「雉に十四種有り」として各地の名をあげ、中に「東方を甾(し)と曰ふ。北方を稀と曰ふ」など、東西南北の雉の異名をあげている。卜辞にみえる四方風神が、すべて鳥形とされる神話と関係があり、鷫(しゆく)字条にもその類の記載がある。〔周礼、秋官、雉氏〕は草を殺すことを掌る。おそらく薙(ち)の意であろう。雉を陳列の意に用いるのは矢陳、また城郭の長さを雉を単位として数えるのは、堵・墀(ち)と同系の語として用いるものであろう。〔説文〕に収める重文の字形は、弟に従うものとされているが、卜文に矢に繳(いぐるみ)を加えた形のものがあり、その譌形であろうかと思われる(字通)、
と、形声文字としている。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
増井金典『日本語源広辞典』(ミネルヴァ書房)
山口仲美編『擬音語・擬態語辞典』(講談社学術文庫)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
この記事へのコメント