夜のほどろ
秋の田の穂田(ほだ)を雁(かり)がね暗(くら)けくに夜のほどろにも鳴き渡るかも(聖武天皇)
の、
暗(くら)けくに、
は、
まだ暗いのに、
の意、
夜のほどろ
は、
夜の闇の白み始める頃、
の意とあり、
「ほどろ」は、密なるものが次第に粗になるさま、
とあり(伊藤博訳注『新版万葉集』)、
夜のほどろにも鳴き渡るかも、
を、
夜の明けきらないうちから、鳴き渡って行く、
と訳す(仝上)。
ほどろ、
は、
「ほど」は、「ほどこる(播 ホドコス(施す)の自動詞形)」の「ほど」と同源で、夜の闇がくずれ散る時分の意という、
とある(精選版日本国語大辞典)が、
ホドク・ホドコスのホドに同じ、散りゆるむ意、ロは状態を表す接尾語、
ともあり(岩波古語辞典)、
ホドク(解く)、
は、
ホドコス(施す)と同根、凝り結ばれているものを、ばらばらにして広げる意、
とあり、
ほどこす(施す)、
は、
ホドク(解く)、ホトバシル(迸る)と同根、もとをゆるめて、広く散らし行き渡らせる意、
とあり、
ほとばしる(迸る)、
には、
ホドク(解く)・ホドコス(施す)のホドに同じ、ハシリは飛び散る意、
とあり(岩波古語辞典)、
ホドク(解く)、
ホドコス(施す)、
ホトバシル(迸る)、
が同根ということになる。
我が背子を今か今かと出てみれば沫雪(あわゆき)降れり庭もほどろに(万葉集)、
と、
ほどろ、
は、
(雪などが)はらはらと散るさま、
また、
雪などがまだらに降り積もるさま、
の意で、
夜を寒み朝戸を開き出で見れば庭もはだらにみ雪降りたり 一云 庭も保杼呂尓(ホドロニ)雪そ降りたる(万葉集)、
と、
はだら、
と、
まだら、
と同義で使ったり、冒頭の、
夜の穂杼呂(ほドロ)吾が出でて来れば吾妹子(わぎもこ)が思へりしくし面影に見ゆ、
と、
夜が徐々に、ほのかに明け始めるころ、
の意で使う。この場合、上述のように、
夜の闇がくずれ散る、
という意味になる。この、
ほどろ、
の、
ほど、
が、のちに、
ほど(程)、
の意に誤解されたことで、
翁(おきな)かく夜のほどろに参りて(宇津保物語)、
と、もっぱら、
夜のほどろ、
の形で、
ころ、
時分、
の意で使われるに至る(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典)。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫)Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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