さだ
人間(ひとま)守(も)り葦垣(あしがき)越(ご)しに我妹子(わぎもこ)を相見しからに言(こと)そ左太(サダ)多き(万葉集)、
の、
さだ、
は、副詞、
はなはだ、
の意とあり、
(ちらっと見ただけなのに)世間の噂がむやみやたらとうるさい、
と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
さだ、
は、
サダカ・サダムの語根サダの副詞的用法か(岩波古語辞典)、
「さね」と語源を同じくする語か(精選版日本国語大辞典)、
「定む」の語幹か(広辞苑)、
くさぐさといひ定むる人言ぞ多きという也(https://www.c-able.ne.jp/~y_mura/manyou/man011.html)、
などとあり、
定、
とあてる(広辞苑)とするものもある。
たしかに、実に、
の意(デジタル大辞泉・岩波古語辞典)だが、一説に、名詞として、
人の評判、批評、
の意(精選版日本国語大辞典)とあり、
さだ多き、
を、
あれこれと多い、
と訳すもの(https://www.c-able.ne.jp/~y_mura/manyou/man011.html)、
さだめて多い、
と訳すもの(https://yamatokotoba-gakkai.org/)もあり、冒頭の訳の
むやみやたらとうるさい、
は、かなりの意訳ということになる。
さだ、
には、
さだか・さだむの語根さだ、
と、
さねと同源、
と二説ある。
さだか、
については、
カは副詞を形作る接尾語(静かに、清(さや)かに)、和訓栞さだか「日本紀に、定を訓めり。不貞を、さだかならず、と訓み、不欺を、さだかなる、と訓み、菅家萬葉に、眞を訓み、白氏文集に、安定、二字を訓めり」(大言海)、
事実として世間的に動かずべくもないし状態。類義語タシカは密である、しっかりしているなどのさま(岩波古語辞典)、
とあり、
冀(ねが)はくは忠直者(うつつあるひと)に見せて臣(やつかれ)の不欺(サタカナルコトヲ)明さむと欲(おもふ)(日本書紀)、
さたかに作らせたる物と聞きつれば、返さむ事いとやすし(竹取物語)、
と、
事実としてはっきりしているさま、
確かなさま、
不動であるさま、
他とくらべてあきらかなさま、
確実に、
の意である(精選版日本国語大辞典・岩波古語辞典・広辞苑)。
定む、
は、
め/め/む/むる/むれ/めよ、
の、他動詞マ行下二段活用で(学研全訳古語辞典)で、
天皇の後継者、帝都・陵墓の位置、罪刑、結婚の可否など神聖な公共的事項を正式に決定するのが原義、古代では、卜占によって神意をうかがい決定することであったろう。後に人が是非を分別して決定する意(岩波古語辞典)、
ゆるぎなく維持されるような状態を固定する(広辞苑)、
物事や心を一つの状態、場所に落ち着かせて動かないようにする(精選版日本国語大辞典)、
サは、差すの語根、差し囘(た)むるの義ならむ、囘(た)む(回む)(撓むの意と云ふ)(差し竝ぶ、さならぶ。押し障(さ)ふる、押ふる)、言ひ曲ぐる意なるべし(大言海)、
などとあり、
生(あれ)まさむ御子(みこ)の継(つ)ぎ継ぎ天(あめ)の下(した)知らしまさむと八百万(やほよろづ)千年(ちとせ)を兼ねて定めけむ奈良の都は(万葉集)
と、
帝都・陵墓の位置を決定する、
意、
皇太子を置き定めてし、心も安く穏(おだ)ひにあり(続日本紀)、
と、
天皇の後継者・婚姻の可否などを決定する、
意、
茲の大罪を以ては、放し還(つかは)すこと合はず。其の罪を断(サタム)(日本書紀)、
と、
罪刑を決定する、
意、
天(あめ)の下(した)治めたまひ食(を)す國を定めたまふと鶏(とり)が鳴く東(あづま)の國の御軍士(みいくさ)を召したまひて(万葉集)
と、
鎮める、平定する、
意、
秋の司召(つかさめし)に太政大臣になり給ふべきこと、うちうちに定め申し給ふ(源氏物語)、
と、
(人物や日取りを)選定する、
意、
其の兵士(ひと)は、一国毎に、四つに分ちて其の一つを点(サタメ)て、武(つはもの)の事を習は令めよ(日本書紀)、
と、
決める、決定する、
意、
しばしふねをとどめて、とかくさだむることあり(土左日記)、
と、
(物事を決定するために)議論する、評議する、
意、
みな人々よみいだして、よしあしなど定めらるるほどに、いささかなる御文を書きて、投げ給はせたり(枕草子)、
と、
是非・優劣を論評し、判定する、
意、
怪しきことの侍りつる、見給へさだめむと、いままでさぶらひつる(源氏物語)、
と、
(事実を)確かめる、
意、
風の上にありかさだめぬちりの身はゆくへも知らずなりぬべらなり(古今和歌集)、
と、多く、下に否定の表現を伴い、
安定させる、しっかり決める、一定させる、
意等々と使う(岩波古語辞典・精選版日本国語大辞典)。
さね、
は、
打消と呼応する副詞、
で、
ちっとも、
の意とする(伊藤博訳注『新版万葉集』)。この、
さね、
は、もともと、
實、
核、
とあて、
真根(さね)の意(日本語源大辞典)、
サ(接頭語 真)+根(根本)、つまり「真の実の中心」が語源(日本語源広辞典)、
真根(さね)の義(故に、実(まこと)、又根本の義ともなる)。和訓栞、さね「核を訓むは、小根の義なるべし」。芽を生ずる原(もと)の意なり、(種(たね)も田根の義、稻も飯根の約)、實は、身にて、核なり、肝要を、核子、骨子と云ふ(大言海)、
サネ(小根)の義(日本釈名・東雅)、
サ(佳)は美称、ネ(根)は本の意か(菊池俗語考)、
サは先、ネは根の義か(和句解)、
サタネ(小種)の義(名言通・和訓栞)、
タネ(種)と通じる(日本古語大辞典=松岡静雄)、
等々の語原説があるが、和名類聚抄(931~38年)に、
核、(さね)、桃人、一名桃奴、毛毛乃佐禰(もものさね)、
核者、子中(このなか)之骨也、佐禰、
とあり、『大言海』は、
桃人、一名桃奴、
に注記して、
人は仁(にん)なり、和訓栞、さね「人の字を訓むは、人康(さねやす)親王の如し、子仁の義に因れる也」、
とする。
類聚名義抄(11~12世紀)に、
實、マサ・マコト・ミ・サネ・フサク・ミノル・ナル・ミツ・ミツク・ヨシ
とあるように、
果実の中心にある核(かく)、
を指し(岩波古語辞典)、瓜の核を、和名類聚抄(931~38年)に、
瓣、宇利乃佐禰
とあり、
瓜ザネ、
という(大言海)。これが転じて、
是を山田大娘皇女(おほいらつめのひめみこ)と為。更の名は、赤見の皇女といふ。文稍に異(け)なりといへども、其の実(サネ)一なり(日本書紀)、
と、
物事の中心、本質となるもの、
根本となるもの、
真実、
の意として使い(大言海)、さらに、
大垣はさねばかりこそ残りけれ方なしとてもいへはあらじな(続詞花和歌集)、
と、
人や動物の骨組。また、土壁や障子などの芯(しん)にする骨組、
等々にも使う(精選版日本国語大辞典)。この、
さね、
が、
転じて、副詞として、
さね忘らえず、
のように、
真実、
本当に、
の意で、奈良時代、下に打消しの表現を伴い、
決して、
少しも、
心から、
の意で使い、中古になると、
行きてみてあすもさね来むなかなかにをちかた人は心おくとも(源氏物語)、
と、否定を伴わず、
本当に、
必ず、
の意で使う。こうみると、
さだか、たざむ、
の、
さだ、
と、
さね、
は、意味は重なるが、由来を異にしている。ただ、
さね、
を、副詞として使うのは、中古になってからなので、やはり、定説のように、
さだむ・さだか、
の、
さだ、
と見ておいた方が無難のようである。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
前田富祺編『日本語源大辞典』(小学館)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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