と(外)
面形(おもかた)の忘るとあらばあづきなく男(をとこ)じものや恋ひつつ居らむ(万葉集)
の、
面形(おもかた)の忘るとあらば、
は、
お前の顔立ちを少しでも忘れる時があったら、
の意、
と、
は、
短い時間、
とある(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
面形(おもかた)、
は、
顔の形、
顔つき、
おもざし、
の意とある(広辞苑)。
面形、
は、
おもてがた、
と訓ませれば、
顔につけるかぶり物で、人や神、動物などの顔にかたどって作ったもの、
面(めん)、
おもて、
の意で、
めんがた、
とも訓ませる(精選版日本国語大辞典・デジタル大辞泉)。
あづきなく男(をとこ)じものや恋ひつつ居らむ、
は、
こんなにもふがいなく、男子たるものが、恋いこがれてばかりいることがあろうか、
と、訳している(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
男じもの、
あづきなし、
については別に触れた。
と、
は、
「と(外)」と同源か、「……とに」の形で用いる(広辞苑)、
①時間を表わす形式名詞としての用法に限られ、語源的には、場所を表わす「と(所)」との関連が考えられる。②打消の助動詞「ぬ」に接続して「…しない前に」の意の用法が多いことから内に対する「と(外)」との関連を考える説もある(精選版日本国語大辞典)、
語源を「外(と)」あるいは「処(と)」に関係づける説などがあるが、未詳(デジタル大辞泉)、
多く「…とに」の形で(学研全訳古語辞典)、
と諸説あるが、岩波古語辞典は、
と、
を、
外、
とあて、
「内(うち)」「奧(おく)」の対。自分を中心にして、ここまでがウチだとして区切った線の向こう。自分に疎遠な場所だという気持ちが強く働く所。時間に転用されて、多くは未だときの至らない以前を指す。類義語ホカは、はずれの所、ヨソは、無縁・無関係の所、
としているので、
と(所)、
の意味と重ならなくはないが、ただの、
場所、
の意では、ここでの、
と、
の意味とつながらないのではないか。空間的には、
外側、
の意だが、時間的には、当該時間の、
前、
あいだ、
の含意で、用法としては、
我が背子を莫越(なこし)の山の呼子鳥(よぶこどり)君呼び返せ夜のふけぬとに(万葉集)、
と、打消しの助動詞「ぬ」を受けて、「とに」の形で、
(……しない)さき、まえ、
の意で、この、
……しない先に、
の意が、
……しない場合に、
の意にも解されるところから用法が広まって(岩波古語辞典)、
ししくしろ熟睡(うまい)寝ん閒(と)に庭つ鳥鶏(かけ)は鳴くなり野鳥(ぬつとり)、雉(ききし)はとよむ(日本書紀)、
と、
……する時、
あいだ、
の意でも使う(仝上・精選版日本国語大辞典・広辞苑)。なお、
戸、
門、
所、
処、
等々と当てる、
と、
については、
と、
で触れたことだが、
門、
戸、
と当てる「と」は、
ノミト(喉)・セト(瀬戸)・ミナト(港)のトに同じ。両側から迫っている狭い通路。また入口を狭くし、ふさいで内と外を隔てるもの、
とあり(岩波古語辞典)、
所、
処、
とあてる、
と、
は、
場所、
ところ、
の意で、
隠処(こもりど→こもりづ)、
のように複合語に使われるが、
寝屋処(ねやど)、
ではなく、
寝屋戸(ねやど)、
と使われたりするので、「戸」と「処」は交換可能のようである。大言海の「と(戸)」の項で、
處の義と云ふ、
とある。さらに
と(戸)、
は、
止むる、又閉づる義。釈名「戸、所以謹護閉塞也」、左傳…注「戸、止也」
とあり、
と(戸)、
は、
「止める」の「と」の可能性がある。日本語源広辞典は、
トは「両側から迫って狭いゐる口」が語源です。戸、門、港のトは同源、
としている。
「外」(漢音ガイ、呉音ゲ、唐音ウイ)は、「外心」で触れたように、
会意兼形声。月(ゲツ)は、缺(ケツ 欠ける)の意を含む。外は「卜(うらなう)+音符月」で、月のかけ方を見て占うことを示す。月がかけて残った部分、つまり外側の部分のこと。亀卜(きぼく)に用いた骨の外側だという解説もあるが、従えない。また、丸く抉ってかく、そのかけ残りの意を含む、
とある(漢字源)。他は、解釈は異にするが、
会意。夕(ゆうべ)と、卜(ぼく)(うらない)とから成る。通常は昼間に行ううらないを夜にすることから、「そと」「ほか」「よそ」、また、「はずれる」意を表す(角川新字源)、
会意。夕+卜(ぼく)。夕は肉を削りとる意。〔説文〕七上に「きなり。卜は平旦(朝あけ)を尚(たつと)ぶ。今、夕にして事を卜するは外なり」とあり、夕に卜するを法外の意とする。〔周礼、考工記、梓人〕に「外骨」「内骨」の語があり、外骨は亀、内骨は鼈(べつ)の属。亀は外骨内肉、その腹甲を卜版に用いた。夕はまた月の形にしるし、卜辞に「其れ父丁に三冖+羊を月(ころ)さんか」とは、その犠牲の肉を削ることをいう。殷王の外丙・外壬を卜文に卜丙・卜壬に作り、外は卜事に関する字である(字通)、
と、会意文字とするもの、
原字「卜」は縦棒の外側に印を加えた指事文字で、のち音符「夕 /*ŊWAT/」を加えて「外」の字体となる[字源 1]。「そと」を意味する漢語{外 /*ŋwˤat-s/}を表す字。甲骨文字では{卜}と{外}はどちらも「卜」と書かれたが、{卜}は亀甲の内側に、{外}は外側に向けて横棒が伸びているという点で区別された(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E5%A4%96)、
形声文字です(夕(月)+卜)。「月の変形」(「刖(ゲツ)に通じ、「かいて取る」の意味」と「占いの為に亀の甲羅や牛の骨を焼いて得られた割れ目の象形」から、占いの為に亀の甲羅の中の肉をかいて取る様子を表し、そこから、「はずす」を意味する「外」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji235.html)、
と、指事文字とするものに分かれる。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
大槻文彦『大言海』(冨山房)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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