心をし君に奉(まつ)ると思へればよしこのころは恋つつをあらむ(万葉集)
の、
よしこのころは、
は、
まあ、もうしばらくは、
の意、
恋つつをあらむ、
の、
を、
は、
間投助詞、
で、
意志や命令を表す句の中に用い、嘆きを強める、
として、
恋い慕うばかりで我慢しよう、
と訳す(伊藤博訳注『新版万葉集』)。
間投助詞、
というのは、種々の語について
いかでなほ、少しひがごと見つけてをやまむ(枕草子)、
と、強調したり、
つひに行く道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを(古今和歌集)、
と、感動・詠嘆を表わしたり、
瀬を早み岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ(百人一首)、
と、体言につき、接尾辞「み」のついた語を後接して原因・理由を表す(ミ語法 上代以前、形容詞の語幹に接尾辞「み」を伴って連用修飾語化する)、
などといったつかいかたをかする(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%82%92)とある。
を、
は、
本来感動詞であったと思われる。日本書紀には「天孫(あめみま)に献(たてまつ)れとのたまふ、高倉唯々と曰(まう)すとみて寤(さ)めぬ」とあり、熱田神宮古写本神武紀に「唯々」の右に「越々」と訓みがつけてある。「越々」は呉音で「をを」と訓む。「をを」は「を」を繰り返したもので、承知・諒承の返辞である。つまり、感動詞「を」とは物事を承認し確認する気持を相手に表明する語であった。それが、万葉集などにおいては、間投助詞として、強調の意を表し、「楽しくをあらな」(生ける者(ひと)遂(つひ)にも死ぬるものにあればこの世にある間(ま)は楽しくをあらな)のようにも使われた。こうした用法から、動作の対象の下について、それを確認するためにこの語が投入された。そこからいわゆる目的格の用法が生じたものと思われる(岩波古語辞典)、
(間投助詞「を」の)語源については「否も諾(を)も欲しきまにまに赦(ゆる)すべき皃(かたち)は見ゆや我(わ)れも寄りなむ」(万葉集)のような感動詞「を」から出たものといわれる。ただし間投助詞「を」は格助詞「を」から派生したものとする説もある(精選版日本国語大辞典)、
間投助詞→格助詞→接続助詞の順で成立したと考えられている(学研全訳古語辞典)、
などとある。ちなみに、
感動詞、
は、
感嘆詞、
間投詞、
ともいうが、たとえば、
「いづら、この近江(あふみ)の君、こなたへ」と召せば、「を」と、いとけざやかに聞こえて(源氏物語)、
と、
はい、
の意で、女性が応答や、承諾する意を表すのに用いる語のように、
感動を表わすもの(文語、あな・あはれ・すは、口語、おや・まあ)、
呼びかけを表わすもの(文語、いかに・なうなう・やよ、口語、おい・こら・もし)、
応答を表わすもの(文語、いな・いや・おう、口語、はい・うん)、
さそいかけに用いるもの(文語、いざ・いで、口語、さあ)、
など、その他、
挨拶(あいさつ)に用いる語(おはよう・しっけい)、
願望を表わす語(ばんざい・いやさか)、
命令を表わす語(きをつけ・まわれみぎ)や、かけごえ(よいしょ・それ)、
間投声(えー・あのー)、
を含めることもある(精選版日本国語大辞典)とする。
未分化ではあるが、総合的で一まとまりの内容を有するから、感動詞は一語で一文に相当する単位とみられる、
とある(日本大百科全書)。さて、
間投助詞
を、
は、文末にあって、前掲の、
つひに行く道とはかねて聞きしかど昨日(きのふ)今日(けふ)とは思はざりしを(古今和歌集)、
八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣作るその八重垣袁(ヲ)(古事記)、
さても、つれなきわざなりや。いとかう際々(きはぎは)しうとしも思はで、たゆめられたるねたさを(源氏物語)、
などと、活用語の連体形または体言を受け、詠嘆をこめて確認し、文中用法として、前掲の、
生(いける)者(ひと)遂(つひ)にも死ぬるものにあればこの世なる間(ま)は楽(たの)しく乎(ヲ)あらな(万葉集)、
と、意志・希望・命令の文中にあって連用の文節を受け、指示強調したり、
紫草(むらさき)のにほへる妹乎(ヲ)憎くあらば人妻ゆゑに我(あ)れ恋ひめやも(万葉集)、
人はいさ我はなき名のをしければ昔も今もしらずとをいはむ(古今和歌集)、
と、情意の対象を詠嘆的に指示したり、
梯立(はしたて)の倉梯(くらはし)山袁(ヲ)嶮(さが)しみと岩かきかねて我(わ)が手取らすも(古事記)、
と、「…を…み」の形で対象を提示し、
…が…なので、
の意で使ったりする(精選版日本国語大辞典)。なお、
…を…み、
の、
「み」は原因・理由を表す接尾語であるが、この「を」を格助詞とする説もある(学研全訳古語辞典)。格助詞であるとすれば、上の用法は感情的態度を表わす用法であるということになる。また、原因・理由を表わす「[名詞]を…み」の形と並んで、「を」のない「[名詞]…み」の形も奈良時代からある(精選版日本国語大辞典)。
み、
については、
言(こと)うるはしみ、
すべをなみ、
で触れたように、
接尾語
で、
采女(うねめ)の袖吹きかへす明日香風都を遠みいたづらに吹く(万葉集)、
瀬をはやみ岩にせかるる谷川の割れて末にもあはんとぞ思ふ(詞花和歌集)、
若の浦に潮満ち来れば潟(かた)を無み葦辺(あしへ)をさして鶴(たづ)鳴き渡る(万葉集)、
などと、
形容詞の語幹、および助動詞「べし」「ましじ」の語幹相当の部分に付いて(学研全訳古語辞典)、
形容詞の語幹に添ひて、「の故に」「さに」の意をなす(大言海)、
形容詞や形容詞型活用の助動詞の語幹に付いて、「名詞+を…み」「名詞…み」の形で ) 原因・理由を表わして連用修飾語となる(精選版日本国語大辞典)、
とする、
み、
は、
(……が)……なので、
(……が)……だから、
……のゆえに、
……によって、
と、原因・理由を表す(精選版日本国語大辞典・学研全訳古語辞典)。多く、上に「名詞+を」を伴うが、「を」がない場合もある(学研全訳古語辞典)。
間投助詞、
の、
を、
は、
鎌倉時代以後、間投助詞の用法は文語化したらしく、和歌を除いてほとんど見られなくなる、
とある(仝上・精選版日本国語大辞典)。ちなみに、仮名、
(「を」教科書体 https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%82%92より)
を、
の字源は、
遠、
の草体(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E3%82%92)とある。
「遠」(漢音エン、広辞苑゛音オン)の異体字は、
远(簡体字)、逺(俗字)、𢕱、𨖸、𫟨(俗字)、
とあり(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%81%A0)、字源は、
会意兼形声。「辵+音符袁(エン 間があいて、ゆとりがある)」(漢字源)、
会意兼形声文字です(辶(辵)+袁)。「立ち止まる足の象形と十字路の象形」(「行く」の意味)と「足跡の象形と玉の象形と身体にまつわる衣服のえりもとの象形」(衣服の中に玉を入れ、旅立ちの安全を祈るさま(様)から、「とおざかる」の意味)から、「とおくへ行く」を意味する「遠」という漢字が成り立ちました(https://okjiten.jp/kanji212.html)、
と、会意兼形声文字とするものがあるが、他は、
形声。「辵」+音符「袁 /*WAN/」。「とおい」を意味する漢語{遠 /*wanʔ/}を表す字(https://ja.wiktionary.org/wiki/%E9%81%A0)、
形声。辵と、音符袁(ヱン)とから成る。距離が長い、ひいて「とおい」意を表す(角川新字源)
形声。声符は袁(えん)。〔説文〕二下に「遼(はる)かなり」とし、遼と互訓。袁は死者の衣襟のうちに玉(〇)を加え、枕もとに之(あし、はきもの)を加えて、遠く送る意。それより遠方・遐遠の意となる(字通)
と、形声文字としている。
参考文献;
伊藤博訳注『新版万葉集』(全四巻合本版)(角川ソフィア文庫Kindle版)
大野晋・佐竹 昭広・ 前田金五郎編『古語辞典 補訂版』(岩波書店)
ホームページ;http://ppnetwork.c.ooco.jp/index.htm
コトバの辞典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/kotoba.htm#%E7%9B%AE%E6%AC%A1
スキル事典;http://ppnetwork.c.ooco.jp/skill.htm#%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%AB%E4%BA%8B%E5%85%B8
書評;http://ppnetwork.c.ooco.jp/critic3.htm#%E6%9B%B8%E8%A9%95
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